それを体現するように、トヨタは決算説明と併せて愛知県での国内工場新設を発表した。トヨタが国内に工場を新設するのは、実に14年ぶりのことだ。
新工場については30年代初頭の稼働を予定しており、東本部長は「既存工場の老朽化に対応するもので、日本のものづくり基盤を残していく」ための工場新設だと明かす。改めて、トランプ関税に右往左往することなく、トヨタの力強さを示した格好だ。トヨタは、逆風の中で持続する利益成長に向けた手を打ったのだ。
先を見据えたこの国内工場新設に加えて、トヨタは3つの重点項目を明示した。
一つは、世界で1億5000万台保有されているトヨタ車を生かしたバリューチェーン収益の増大。二つ目が北米主体の収益構造から各地域でバランスさせる地域戦略。三つ目が「稼ぐ力」の向上による損益分岐台数の改善だ。
中長期的なトヨタの成長策として注目したいのが上記の一つ目の保有台数をベースとしたバリューチェーン収益拡大策だ。
トヨタの強みといえば従来、TPS(トヨタ生産方式)だった。「無駄を徹底的になくして、良いものを安く、タイムリーにお客さまに届ける」というトヨタの経営哲学を、生産現場だけでなく事務系から販売現場にまで浸透させてきたことや、原価低減戦略がこれまでの成長の背景にあった。
それがここ5年ほど、世界の販売ネットワークや保有台数の強みをどう生かすかという視点に収益の源泉をシフトさせてきた。生産供給だけでなく、新車販売後のアフターフォローにおける整備サービスや中古車・リサイクル、金融サービスに至る、いわゆる“ゆりかごから墓場まで”のバリューチェーンで収益強化を推進してきたことで「バリューチェーン収益が1兆円から2兆円に倍増している」(東本部長)のだ。