足元のトランプ関税対応としては、米消費者の動向をにらんだ入念な価格戦略と部品調達網の見直しに加え、米国以外の販路拡大を進めることになる一方で、中長期的な収益性の向上策も欠かせない。トヨタは、今後もバリューチェーン収益の強化を図る考えで、景気などに左右されやすい新車販売主体のビジネス以外の収益源を確保することで、収益の安定化とデジタル化を見据えた新しいビジネスの基盤としたい考えだ。

業界活動・グループ再編などで
存在感を示す豊田章男氏

 さて、豊田章男会長が14年間にわたって務めたトヨタ社長の座を佐藤恒治氏に譲ったのが、23年のことだ。また、豊田氏が約5年間と異例の長期間務めた自工会会長職も、24年に片山正則いすゞ会長に譲った。

 一方、トヨタの内政は佐藤社長以下の経営陣にある程度任せているが、今年6月に豊田氏は日本自動車会議所会長に就任し、トヨタ会長の立場と併せて自動車産業界の“リーダー役”として存在感を発揮している。目下の課題は、“重税”である日本の自動車関係諸税の抜本的な見直しの推進だ。

 豊田氏の経済界や政治への影響力は強く、トランプ関税の日米交渉の際にも、慶應義塾高校・大学の同級生でもある石破茂首相に「米国車をトヨタで販売する」という“交渉カード”をトヨタ側から提案したと報道されている。トヨタの販売店からは「かつてキャバリエというGM車を売らされて苦労したんだけどね」といった声も聞かれたが、豊田氏へのリーダーシップへの期待感は、政界からも非常に強いということだ。

 また、グループ再編でも大きな動きが生じた。今年6月には、トヨタの源流に当たる豊田自動織機の株式非公開化に踏み切ることを表明したのだ。トヨタグループの持ち合い解消の総仕上げとされたが、その中心的役割を担うのがトヨタ不動産(旧東和不動産)で、同社は持ち株会社を通じて豊田自動織機の実質的な親会社となる。

 トヨタ不動産は、東和不動産時代から「裏のトヨタグループ中核会社」であり、トヨタ不動産の会長は豊田氏が務めている。不動産よりも「投資会社」の側面が強くなっており、トヨタグループのビジョンなどを体現する意味では中心的な存在だ。つまり、資本の上では持ち合いの解消が進む一方、トヨタグループの豊田家回帰の動きが鮮明になったとも捉えられるのだ。

 今回のトランプ高関税の逆風の中で、トヨタが変革を加速する機会としてその収益構造の変貌を推進している。それと同時に、トヨタグループの再編や、豊田氏肝いりの静岡県裾野市のモビリティ未来都市「ウーブン・シティ」が9月25日に開業することでも分かるように、豊田氏の腕力が強みを増しているようにも受け止められる。

(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)