また、どの年齢層でも、文字を読める子とほとんど読めない子の二極化がみられました。中間に位置する子どもは非常に少なく、これは文字と音の関係に気づくと文字習得が急速に進むことを示しています。この習得の開始時期には、個人差が大きいこともわかります。

新しい研究でわかった
子どものひらがな習得の過程

 比較的新しい調査として、5~6歳児230名を対象とした2014年の研究があります(注1)。この調査結果は1988年の結果とほぼ一致し、ひらがな71文字のうち平均64.9文字を読めることが確認されました。さらに、約70%の子どもがすべてのひらがな文字を読めることが示されています。

 これらの研究では、調査者が参加児にひらがな文字を提示し、子どもがその読みを答える方法を用いて、ひらがなの読みを測定しました。しかし、近年の研究では、ひらがな読みの習得を支える認知能力が、非常に早い段階から発達していることが明らかになっています。

 そのため、自発的に文字の読みを答えられない場合でも、子どもがひらがな文字をある程度理解している可能性があります。

 そこで、私たちの研究グループは、ひらがな文字を読むことができなくても、文字と音の対応をゆるやかに理解している段階が存在するのではないかと仮説を立て、その検証を行いました(注2)。このように、ひらがな文字と音の対応が形成されつつある状態を「ひらがな文字音知識」と呼びます。

子どものひらがな理解度を
図るための緻密な実験方法

 この実験では、ひらがな文字音知識を評価するため、注視時間を指標とした選好注視法を用いました。参加者の子どもは保護者の膝の上に座り、画面に提示されるひらがな文字を見ました(図版3―3)。

 まず、画面上に2つのひらがな文字をペアで提示し、標的となるひらがなの音声を流します。

図版3-3『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか』より転載 拡大画像表示
注1 太田静佳・宇野彰・猪俣朋恵(2018).幼稚園年長児におけるひらがな読み書きの習得度.音声言語医学,59,9-15.
注2 Higuchi, H., Okumura, Y., & Kobayashi, T. (2021). An eye-tracking study of letter-sound correspondence in Japanese-speaking 2- to 3-year-old toddlers. Scientific Reports, 11, 1659.