田内学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家たうち・まなぶ/お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)、『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。 Photo:Diamond

作家で社会的金融教育家である田内学さんの新著『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版)は、お金の不安を個人の責任に矮小化してきた社会の構造を問い直す一冊だ。前編(「お金の不安」につけこまれる人の“たった1つの特徴”)に続き、インタビュー後編では「つながり」や「支え合い」が持つ経済的・社会的な意味を掘り下げる。「信頼こそが社会を動かす本当の資本」だと語る田内さんに、これからの時代を生きるための指針を聞いた。(フリーライター 樋口可奈子)

「働く」と「生きる」を切り分けず、居場所を複数作る

――2025年10月21日、高市早苗新政権が誕生しました。高市首相が自民党新総裁に選ばれた際、「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」という発言が大きな議論を呼びました。前編では、「労働力不足が進むなかで、個人の努力だけでは支えきれない社会になっている」というお話がありましたが、私たちは今後の「働き方」をどう考え、実践していけばいいでしょう?

 そもそも、「ワーク」と「ライフ」はきれいに分けられるものではないと思っています。

 働くこと自体が生きることの一部でもあるし、家事や育児のように、仕事と生活が地続きのこともある。だから、「ワーク・ライフ・バランスを取ろう」と言われても、両者を線で分けて考えること自体に、あまり意味がないように感じます。

 僕自身、執筆しているときは1日十数時間でも集中してしまうタイプです。でも、それを「働きすぎ」と言われると、違和感を覚えます。問題なのは周囲から強制されて、長時間働かせることであって、自分の意思でやりたいことに時間を注ぐこととは、全く別の話です。

 書くことそのものが、僕にとっての「居場所」でもあり「ライフ」でもあるのです。そういう時間を含めて、「ワークの時間をもっと減らせ」と一律に言われても、納得はできません。問題になるのは、立場的に強い会社側が従業員のワークライフバランスを考えずに「もっと働け」と強制することであって、本人が選べているなら問題ないのではないでしょうか。