たとえば、「し」と「こ」のひらがなペアが表示され、「しー、しはどっち?」という音声が流れます。このとき、子どもの視線の動きをアイトラッカーで測定しました。
もし、子どもがひらがな文字音知識を有していれば、提示された音声と一致する標的文字(この場合は「し」)を注視すると考えられます。この方法は、実際に声に出して文字を読む必要がなく、文字を見るだけでよいので、文字と音の結びつきがそれほど強固でない段階でも評価可能です。
先に紹介したひらがな読みの研究では、習得時期には個人差があるものの、3歳時点では半数以上の子どもがひらがなをほとんど読めていません。本研究では、読み習得前の2歳から3歳代の子ども107名を対象に、ひらがな文字音知識を調べました。
しかし、文字だけが表示される画面は子どもにとって面白みに欠け、退屈だったのでしょう。多くの子どもが飽きて画面を見なくなりました。その結果、27名の視線データが十分に取得できず、最終的に80名のデータが分析対象となりました。
余談ですが、赤ちゃんから3歳くらいまでの子どもを対象とした実験ではこういうことがよく起こるため、多くの困難が伴います。
5歳くらいになると、「じっと座って画面を見てね」という指示が理解されやすくなりますが、幼い子どもは自由に動き回ります。
実験では、嫌がる子どもに無理に画面を見せることはしません。それでは、子どもの能力を適切に反映したデータが得られないからです。
このような制約の中で、いかに工夫して子どもの能力を測定するかが、研究者の腕の見せ所であり、醍醐味でもあります。