アメリカでも増える
「パラサイト・シングル」
雇用構造の変化と並んで深刻なのが、住宅市場の硬直化である。
住宅ローンを日米で比較すると、日本では変動金利が好まれやすいが、アメリカでは固定金利が好まれやすい。米連邦住宅金融庁(FHFA)によれば、全米世帯の約6割が3%以下の固定金利ローンを保持している。これは2020~21年の低金利期に住宅ローンを利用して大量購入された結果だろう。
いま住宅を買い替えれば、金利は7%前後が想定され、家計への負担はかなり大きい。
また、アメリカでは住宅所有者が住み替えると、賃貸よりローンで購入することが多い。これは住宅価格が上がりやすく、賃貸より得になることが多いからである。
現在のように金利が高ければ、購入したあとの金利負担が大きく、多くの世帯は引っ越しを避けるほうに向かいやすい。2023年の人口移動率は7.8%と戦後最低を記録したのは、この金利の高さが影響したためだと考えられる。
また、若者の独立も遅れている。カリフォルニア大学やピュー・リサーチ・センターの調査では、25~34歳の約38%が親と同居しており、1970年代以来の高水準である。
アメリカでは「就職したら家を出る」のが常識とされてきたが、その文化が崩れ、日本的な「パラサイト・シングル」現象が広がりつつある。
好調な経済の裏で
進む雇用の質的低下
このような環境下にあっても、アメリカ経済は強含みに進んでいる。2025年のGDP成長率は2%台後半と堅調で、失業率も3%台に低下している。株価も史上最高を更新中だ。
だが、その内実は「量より質」の問題を抱える。新規雇用者数は市場予想を下回り続け、労働参加率も上がらない。つまり表面上は完全雇用だが、新しい職が生まれていない。
これは日本の「失われた30年」で見られた現象と似ている。
日本では不況でも失業率が急騰せず、その代わりに働いている企業を守るために、賃上げを我慢して、賃下げを受け入れるものである。日本はアメリカのような産業別労組ではなく企業別労組が中心であり、デフレ不況で企業を守るために労組が率先して賃下げを受け入れることも珍しくなかった。
アメリカも徐々にではあるが、同じ業界内で転職をしてステップアップするより、同じ会社で長く働くことがよいという空気も醸成されつつある。