労働市場の二極化と
人口移動率の地域格差

 ニューヨーク連銀の調査によれば、労働者は「職を失った場合の再就職可能性」について、1年前よりも悲観的になっている。

 内部者(既存社員)は守られる一方、外部者(新卒・転職希望者)は厳しい条件にさらされる。これは典型的な「内部労働市場」の強化である。

 実際に、マイクロソフトやグーグルなどの大手IT企業は、2023年の大規模リストラ以降、新規採用を抑制し、配置転換や内部昇進を優先している。これは日本型の「終身雇用・社内市場」と重なる。

 また、人口移動率の低下は全米的な傾向だが、その影響は地域ごとに異なる。

 同じ経済活動の活発な州でも、共和党の強いテキサス州やフロリダ州には流入が続くが、民主党が強くリベラル色の強いニューヨーク州、イリノイ州、カリフォルニア州からの流出が止まらなくなっている。保守的だったアリゾナ州は移民流入が続いたために、いまや「激戦州」になっている。

 その背景には共働きの増加がある。全米労働統計局によれば、フルタイムで働く女性の割合は2025年に労働力人口のほぼ半分に達している。共働き世帯は職場が離れて別居になることを嫌うので、移動率が低くなりがちだ。

 全体的に保守的な州での「定住」が好まれるようになっていると考えられる。これは、大都市で高収入を目指してキャリアアップを積むより、穏健な地域に定住したいという層が増えているからだと考えられる。

雇用市場の「日本化」は
さらに進むのか

 トランプ大統領の反移民政策によって、徐々に進んでいたアメリカの雇用市場の変化はさらに加速がついているように見受けられる。社会全体が「内向き」へシフトし、安定を選び取っている。

 ただ、これはトランプ大統領が進めたのではなく、「トランプ的なもの」が現在のアメリカ人の現役世代にマッチしていたからこそ、トランプ大統領が誕生したと見るべきだろう。

 つまりは構造的な現象であり、今後もアメリカにおける雇用市場の「日本化」は進むと考えられる。それはアメリカ経済からダイナミズムを奪い、生産性を抑える方向に進むはずである。

 とはいえ、家にいる時間が増え、家族と過ごし、中には日本のアニメやゲームを楽しむアメリカ人も増えるのであれば、それもよいことだろう。日米の距離は価値観においては着実に縮んでいる。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)