薬物関連について、「(違法となる)日本で使用したことはないが、(合法となる)海外で使用したことがある」という人もいる。しかし、本人の認識や常習性の有無に関わらず、「日本では違法なものは、とにかく違法」という当たり前のことを強く認識すべきだ。

 経営者は日々、大きなプレッシャーがかかっているから薬物に手を出す構図がある、などという理屈は論外だ。薬物は、無知・無自覚がもたらす軽率だが重大な犯罪である。依存症につながる点では、深刻化するオンラインカジノ問題、ギャンブル依存症の増加と共通する。

 役員・従業員が関与する薬物事件や賭博事件が、企業の業績やレピュテーションに悪影響を及ぼす可能性は高い。薬物や賭博は依存症や経済的破綻を引き起こし、企業にとって大切な人的資本を毀損する点でも、経営リスクのひとつとして捉えるべきだ。

「個人の問題」や「そんなの常識でしょう」などと片付けてリスクを放置するのではなく、企業側も大麻をはじめ薬物、そして賭博に関する啓発を全ての役員・従業員に対して継続的に行っていくべきだろう。

薬物依存症に特効薬はない~社会全体で支援を

 薬物は一度使用してしまったら、自分の意志だけではやめられない。万が一、薬物の使用を誘われたら、(1)誘われてもきっぱり断る、(2)断りづらいならとにかくその場から離れる、(3)気持ちが揺れそうになったら「大事なこと」「将来やりたいと」「大事な人」を思い出す、(4)断れなくて困ったら、薬物専門の窓口に相談する、と覚えていてほしい(政府広報資料より引用)。

 もし、友人や家族が大麻を使っていたら、薬物専門の窓口になるべく早く相談をするようアクションを取ってほしい。薬物依存症には残念ながら特効薬といえるような治療法はない。薬物を絶つしかなく、それでもストレスなどをきっかけに幻覚や妄想などの症状(フラッシュバック)が出てくるし、どんなに少量でも再び使うと元の依存症状態に戻ってしまうなど、ひとりでコントロールし続けることは不可能だ。

 現状では、認知行動療法などを行う専門の医療機関や相談施設、体験者が互いに支えあう「ダルク」などの自助グループに通い、つらさや悩みを共感し連帯しながら薬物を断ち続けるしかない。

 薬物、ギャンブル、あるいはアルコール依存症にも共通するが、こうした問題を正しく理解し、依存症者やその家族を孤立させないためにも、社会全体で取り組むべき課題と認識されることを期待したい。

芳賀恒人プロフィール