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取引先や配偶者など、身近な相手との間における、どうにも理解不能な記憶のスレ違いは、だれもが経験したことがあるのではないか。絶対にそんなことは言ってないのに、「言った」と言って譲らない。あるいはまったく聞いていないことを「たしかに伝えた」と相手に自信たっぷりに主張される。このような「言った・言わない問題」はどのようなメカニズムで起こっているのか?(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

※本記事は『なぜあの人は同じミスを何度もするのか』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再編集したものです。

妻と激しい口論に

 配偶者との間の記憶のスレ違いに困っているという人は、つい最近の経験について、つぎのように語る。

「実は、このところ妻と険悪になってまして……仕事でぐったり疲れて帰宅しても、そこがまたピリピリした雰囲気で、全然くつろげなくて困ってるんです」

――仕事で疲れ切って帰宅しても、そこで安らげないのは辛いですね。

「ほんと、辛いですわ。ちょっとしたことで、お互いいきり立ってしまって……それ以来、態度がよそよそしくて」

――ちょっとしたことがきっかけということですが、具体的に何があったんですか? もし差し支えなければ。

「いや、差し支えなんてないです。ほんとにちょっとしたことなんで。2カ月ほど前でしたか、土曜の夜に妻が『明日はお天気良さそうだし、動物園に行くのにちょうどよかったね』って言うから、『何言ってるんだ。明日はゴルフだよ』って言ったんです。そうしたら『今度の日曜に子どもたちを連れて動物園に行こうよって言ったら、あなたはそうしようって言ったじゃない』なんて言うんです。私はそんなこと言った覚えはないため、激しい口論になっちゃったんです」

――そうだったんですか。お互いの記憶が真っ向からスレ違ってしまったんですね。