応援すること、されること」が最大の力になっていく

 有森さんがランナーとして最初の一歩を踏み出したとき、恩師がしてくれたことは「応援」だった。「応援」は、応援する人が思っている以上に、応援される人に大きな力をもたらしていく――有森さんは、そう明言する。

有森 いまここに、がんばっているあなたがいるから、人は、その人を応援するのです。だから、人は、応援されると、“自分が存在し、がんばっていること”を改めて強く感じます。そうして、その人はさらにがんばることができるようになる。マラソンでは、沿道にいる人の声援で、ランナーは生き返ります。応援する人は、自分の声でランナーが元気になることに自分の存在意義を感じます。「応援」をする側もされる側も、「応援」によって、新たなエネルギーを得ていくのです。

 職場においても、応援したり、応援されたりする行為はモチベーションのアップに大切なものだ。とはいえ、日々の業務の中で、「応援」はそれほど多くないように思えるが……。

有森 応援し合える関係をつくりたいなら、社内運動会の開催がおすすめです。オフィスの中では良い関係をなかなか築けないメンバーであっても、同じチームになると、「お互いがんばろう!」という意識が芽生えます。最近は、会社単位で駅伝大会に出場することも増えているようです。「みんなで、1本のたすきをつなぐ」という結束感と達成感が、仕事にも好影響を及ぼすのでしょう。

 また、誰かを応援することで自分たちが元気をもらうという意味では、会社単位でSDGsをテーマに活動したり、ボランティア活動をおこなったりすることも有効でしょう。社会を支援する活動に会社が携わっていれば、そこで働く社員は、誰もが誰かを応援していることになりますから。

マラソンのランナーは沿道からの応援で生き返る。有森さんは、企業でも日頃から応援し合う関係性をつくっていくことをアドバイスする。

 アトランタ五輪から、約30年――いま、有森さんは次世代を応援しながら自分の道を走っている。この先には、どのようなゴールを思い描いているのだろうか?

有森 「スポーツ、アート、ミュージック」という3つの領域で、人間の生きる力、社会が繁栄する力を引き出していけるような場を、子どもや若者たちと一緒に創り、みんなが共に育っていける教育活動をしていきたいですね。

 大切なのは、「能力の有無に関わらず、状況を変えていく力は誰にでもある」ということ。そして「自分自身で決めたことに挑戦するとき、その人にはものすごく大きなエネルギーが湧いてくる」ということ。応援したり、応援されたりすることで、そのエネルギーはさらに強くなる。誰もが何かに挑戦することができて、自分の道を拓いていけることを、私は若い世代に伝えていきます。