正体不明の「痛み」に苦しむ人は推定2000万人以上!慢性痛治療に立ちはだかる「バカの壁」とは北原雅樹氏
横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科

 北原氏は約30年もの間、このことを繰り返し訴えてきた。2006年に東京慈恵会医科大学ペインクリニックの診療部長・麻酔科准教授になって以降は、複数の診療科を回って治療を受けるものの効果なく、「謎の痛み」を悪性化・難治化させてしまった患者の治療にあたり、「痛みの名探偵」と呼ばれるまでになった。

 慢性痛の何たるかを熟知する仲間たちと協力して、さまざまな専門家がチームで治療にあたる「集学的痛みセンター」の普及にも尽力してきたが、2025年8月現在も、慢性痛医療をめぐる現状はなかなか好転しない。

「的外れな認識や治療法を改めようとしない医師たちには、いわゆる“バカの壁”があるんです」

 この7月、ある雑誌の慢性痛特集で対談した東京大学名誉教授で医学博士の養老孟子氏の名著『バカの壁』になぞらえて次のように語る。

「(的外れな治療をする医師たちは)慢性の痛みに対する理解がすごく遅れています。慢性痛と急性痛は治療方針が全部違うということを、知らないんですよね。しかも、自分たちが知らないということも知らない。

 そこに壁ができている。自分たちにも治せると、勘違いしている。そこがバカの壁です。彼や彼女らが悪いのではありません。知らないことを理解できるのは天才だけですからね。僕たちだって、(慢性痛の治し方を)天才的に思いついたわけではありません。海外で行われてきたことを見て、それなりにアレンジしただけ。特別に難しいことをやっているわけではないですから」

激痛に苦しみながら……
きっかけは家族5人の“がん死”

「もともと僕は文系人間」と北原氏。

「通っていたのは中高一貫の筑波大附属駒場、通称『筑駒』(つくこま)という男子校です。都内最難関のエリート校で、中学時代は『君たちは自分たちの才能を自分で得たと思うな。君たちはその才能を社会のために使うために生まれてきた』と散々言われたものです。

 だから学校の卒業生は官僚がすごく多くて、民間企業に就職する人は少ない。自分の能力は、世のため人のためにあると、僕もいまだにどこかで信じています」