「基礎控除額の適正化」で
本当に国の財政は厳しくなる?

 世間で議論されているのは、(1)国民1人ひとりにとっていくら減税になるのか(手取りがいくら増えるのか)と、(2)それによって国の税収がいくら減るのか、この2点です。

 このような議論を軸にすると、「大幅減税を歓迎する国民」対「税収不足で困る国」という図式になってしまいます。しかし、この問題の本質は、そこにはありません。

 憲法が要請する「生活費控除の原則」の所得税法上のあらわれとしての「基礎控除の標準額」。これを物価上昇にあわせて引き上げなければならないなかで、具体的にどのように応えるべきなのか?これが問題の本質だったのです。

 端的にいえば、「基礎控除額の適正化」の問題でした。

 この「基礎控除額の適正化」の問題で、税収が減り、国の財政が厳しくなるという反対論には、説得力がありません。というのも、所得税法が定める「基礎控除の標準額」は、昭和時代には、物価上昇に応じて毎年のように引き上げられていたからです。

 この30年は物価上昇がなかったので、「基礎控除額の適正化」は話題になりませんでした。物価高が急速に進んだことで、令和時代に問題が顕在化しました。

 ですから、憲法の要請に基づき、これを国民全員について引き上げることは必須なのです。

 それによって国の税収が減るといいますが、そもそも物価上昇によって国の税収は大幅に上がっています。国が受け取るものでは「物価上昇の恩恵」を受けながら、それを払う国民が生活に払う費用(最低生活費)は「物価上昇の負担」をそのままさせる。反対論は、このロジックを「理屈」として正当化できるのか、大いに疑問です。

30年前には不要だった
「最低生活費」の負担

 最後に「最低生活費」の内容を考えてみたいと思います。この点は、2020年(令和2年)のコロナ禍以降、筆者が疑問を感じていたことでした。以下、その要点を述べます。