長らく「失われた30年」の間、大卒の初任給といえば、月収20万円程度が続いてきました。2025年(令和7年)4月の新卒社員の初任給は、「30万円」を超える企業が続出していることが、報道されています。

 民間主要企業の「賃上げ率」も、令和6年(2024年)8月に厚生労働省の公表した統計データによれば、「5.33%」で、平成3年(1991年)以来という33年振りの5%台が記録されています。

 給与所得者の「平均賃金」が全体的に上がっていけば、「平均所得」も上がることになります。もし将来そのような推移がみられれば、平均どおりの所得の人でも、従前の「税率表」を使ったときに、「所得段階」が自然に上がり、「高い税率」(段階税率)が適用されるようになってしまいます。このような状態を「ブラケット・クリープ」と呼びます。

 お菓子の量を減らして値段を変えない「実質値上げ」が、「ステルス値上げ」と呼ばれていました。これにならい、「ステルス増税」といわれることもありますが、「ステルス増税」は、「税率」を上げずに「控除額」を引き下げることも含めた「実質増税」をいいます。

 これに対して「ブラケット・クリープ」は、物価高や賃金増などの経済状況への対応を、「税制」が放置して「法改正」をしないことから起きてしまう、税負担の自然増です。

 長らく日本に生じなかった現象ですが、財政の専門家の著書をのぞくと、このような指摘は従前からされていました。日本にもかつてはインフレ時代があったからです。

 具体的には、「インフレ展開過程では諸控除および税率をそのままに据置くだけで大衆課税の程度はますます強化されていく」(林栄夫『戦後日本の租税構造〔再版〕』〔有斐閣、1968年〕86頁)、「インフレによる自動的な税負担増(いわゆるブラケット・クリープ)」(石弘光『現代税制改革史』〔東洋経済新報社、2008年〕486頁)といった記述です。

「税率表」の修正が必要な時代に
日本はすでに突入している

 さきほどみたように、物価高によるインフレのもと、日本の税収はこの数年うなぎのぼりになっていました。予算(見込み額)よりも最終的な税収が大きく上回る「上振れ」も、あたりまえのようになってきています。

 税収増になっているのは、「国税」に限られません。