● 米国の総合ヘルスケアカンパニー群
続いて、世界のドラッグストア業界をリードしているのが、米国の2大巨頭、CVS HealthとWalgreens Boots Allianceです。
彼らは、全米に広がる数千のリアル店舗網を最大の武器に、医療システムそのものを内側から垂直統合しています。下図に示したように、彼らのスケールは、日本の常識をはるかに超えています。実に、ウエルシア・ツルハ陣営の10~25倍超の規模です。

この数字だけでも衝撃的ですが、驚くべきはその事業内容です。
彼らはもはや「薬を売る小売店」ではなく、リアル店舗をハブとした「総合ヘルスケア企業」です。
例えば、CVS Healthの事業ポートフォリオを見ると、店舗での物販を含む部門(Pharmacy & Consumer Wellness)の売り上げは全体の3割程度に過ぎません。残りの7割は、保険会社に代わって薬剤の給付管理をするPBM(Pharmacy Benefit Management)事業、米国最大級の医療保険会社Aetna(エトナ)の運営、店舗内に併設したクリニック「MinuteClinic」での医療サービスなど、保険・医療サービスから生み出しています。

● 全てを飲み込むプラットフォーマー、Amazon
そして、忘れてはならないのが異業種からの黒船、Amazonです。
同社は、オンライン診療からリアルなクリニック「Amazon One Medical(2025年8月時点、米主要都市のみ)」への連携、処方薬の宅配(Amazon Pharmacy)までを一気通貫で提供するエコシステムを米国で構築しています。
これは、顧客が体調不良を感じてから薬を受け取るまでの全行程をAmazon内で完結させる、まさに「顧客接点の独占」モデルです。その圧倒的な利便性とデータ活用力は、既存のドラッグストアにとって最大の脅威の一つとなりつつあります。

ウエルシア・ツルハ陣営の脳裏には、こうしたグローバル企業の姿があるはずです。
もはや国内で消耗戦を繰り広げている場合ではなく、まずは2兆円連合となって最低限の「体力」をつけ、次なる戦いに備える――。これが、今回の統合に隠された戦略的な意味なのでしょう。