PMIこそが統合の「本当のスタート」
待ち受ける“2つの課題”とは?

 M&Aの最終段階であるPMIとは、異なる企業文化や業務プロセス、情報システムなどを一つにすり合わせ、シナジーを創出する活動全般を指します。

 経営統合は「契約に調印すれば終わり」ではありません。むしろ、PMIこそが本当のスタート地点です。

図表:M&AのプロセスM&Aのプロセスにおいて、PMIは最終段階にして、統合後の価値創造を左右する最も重要なフェーズ 出典:GLOBIS学び放題「PMIってなに?/ファイナンスジャーニー」より 拡大画像表示

 しかし、その道のりは決して平坦ではありません。

 日本の課題解決モデルを、世界の健康を支える価値へと転換するためには「データ」を資産に変え、「顧客接点」を“健康サポート体験”に変える発想が不可欠です。

 ゆえに、最初の課題として考えられるのは、分断された「データの統合」です。

 現在、ウエルシアはイオングループ、ツルハは楽天と、顧客データ基盤が分かれています。このバラバラなIDを統合し、顧客を「一人の生活者」として立体的に捉えることは極めて高いハードルです。

 しかし、これが実現すれば、ウエルシアの「調剤データ」とツルハの「食品データ」を掛け合わせ、「病気になる前」の段階からパーソナルな健康提案を行う、究極の予防ヘルスケアが実現します。

 そして次の課題は、全国5600を超える「顧客接点」の再定義です。

 統合後の店舗網は、単なる小売りではなく、地域社会の医療リソース、すなわち「健康支援プラットフォーム」へと進化するポテンシャルを秘めています。国の政策が“医療の外縁を拡張する”方向に動いている今、在宅患者への薬剤配送と服薬フォロー、個人健康記録と連携した健康モニタリングなど、医療の“身近な相談窓口”としての機能を果たすことも可能となるのです。

 もはや、商品のラインナップや価格だけで勝負する時代ではありません。

 ウエルシアの「専門性」とツルハの「利便性」を融合させ、データに基づいた信頼性、アプリによる手軽さ、そして一人一人に寄り添うパーソナライズという“体験”を提供すること。これこそが、世界の競合にも対抗し得る真の価値となります。

M&Aは、未来のカタチを
創造する競争

 ウエルシアとツルハの経営統合は、単なる国内の業界再編という話ではありません。これは、日本のドラッグストアという業態が、従来の殻を破り、新たなカタチへと進化するための、壮大な挑戦の第一歩です。

 その成否は、PMIを通じて両社のDNAを真に融合し、データと顧客接点を新たな価値へと転換できるかという「組織能力」にかかっています。「売り上げ」や「店舗数」という定量的な指標だけでは、本当の勝者は見えてきません。

 これからのM&Aは、”顧客と社会にどんな価値を届けるのか?”という、未来のカタチを創造する競争なのです。この巨大連合の舵取りは、日本のヘルスケア産業全体の未来を占う、重要な試金石となるでしょう。