世界で勝つためのヒントは
日本にあった!?
では、ウエルシア・ツルハ陣営が、海外の巨人と伍していくためにはどうすればよいのでしょうか。
そのためには、彼らがまだ持っていない独自の価値、すなわち世界で戦うための「武器」が必要です。
そのヒントは、意外にも日本の国内事情、「医療政策の転換」と「深刻な社会課題」という2つの側面の中に眠っています。
第一の武器は、国の医療政策転換が生み出す「新たな事業モデル」です。
日本の医療費は年間46兆円(2022年度)を超え、財政的な限界が近づいています。そのため政府は、従来の“治療中心”から“予防・地域完結型”の医療への移行を急ピッチで進めています。
その方針を裏付けるのが、「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」という考え方です。これは単に医療費を削るのではなく、有効な予防や支援に資源を集中させるというもの。この流れは、ドラッグストアにとってまさに追い風です。
在宅医療での服薬指導、軽症者に対するセルフメディケーション(OTC活用)の促進、電子処方箋や個人健康記録(PHR)との連携強化など、国の政策がドラッグストアに新たな役割と市場創造のチャンスを与えているのです。
第二の武器は、この国内モデルを世界に展開できる「先進性」です。
日本は世界で最も高齢化が進行した「課題先進国」ですが、これは見方を変えれば、未来の世界が直面する課題の解決策を先んじて研究・実践してきた「巨大な社会実験室」であることを意味します。
国の政策を背景に磨き上げられた地域医療との連携モデルや介護ノウハウは、これから急速に高齢化が進むアジア諸国にとって、まさに輸入したいビジネスモデルそのものです。

さらに、肥満や生活習慣病に起因する慢性疾患は、いまや世界共通の課題です。
WHOによれば、世界の死因の4分の3近くが生活習慣に関連する病気であり、2035年には世界の成人の半数以上が肥満・過体重になるという衝撃的な予測も出ています(世界肥満連合「World Obesity Atlas 2023」)。
この「静かなるパンデミック」に対し、日本の予防ヘルスケアの実践ノウハウが確立できれば、世界的な健康トレンドの中心を射抜く可能性を秘めています。
つまり、この統合で目指すべきは、日本の政策をテコとした社会課題解決モデルを、世界へ輸出することです。しかし、その壮大なビジョンも、経営統合後、つまりPMI(Post Merger Integration、M&A後の統合プロセス)の成功なくしては、絵に描いた餅に終わってしまいます。