(1) 年間退職者がゼロになった介護施設

 介護業界は全国的に人手不足が叫ばれていますが、介護・看護サービスなどを提供する岡山県倉敷市の創心會も例外ではありませんでした。特に深刻な事業所では、約20名のスタッフのうち3分の1にあたる7名が1年間で退職。シフトを組むのが難しく、特定の職員に負担が集中してしまうことも。さらに新たなスタッフを採用するためのコストも膨らみ、人材が定着する職場づくりは大きな経営課題となっていました。

 そこで同社は、「ほめる教育」に注目し、まずは「ほめシート」を導入しました。このシートは上司から部下に向けて「ありがとう」「成長したな・すごいな・好感が持てる」「期待していること」の三要素を書いて渡すというシンプルな仕組み。普段なかなか言葉にできない感謝や承認を、誰でも手軽に可視化できるものです。

 さらに、本人に直接伝えるだけでなく、第三者を介してほめ合う(陰でほめ合う)「陰ほめ文化」も広めました。人は誰かに直接ほめられるよりも、「あの人があなたのことをほめていたよ」と人づてに聞いたほうが、心に深く響くものです。直接言われると「お世辞かもしれない」と構えてしまうこともある一方で、自分のいない場で語られた評価には利害関係がなく、「本当に認めてもらえているのだ」と実感できるのです。

 たとえば同社でも、「Aさんが昨日の夜勤で最後まで笑顔で頑張ってくれたので、助かったよ」と、上司がBさんに伝える。そしてBさんが、「Aさんの笑顔のおかげで助かったと、上司が喜んでいたよ」とAさんに声をかける――そんなシーンが積み重なり、「ちゃんと見てもらえている」という実感が若手にも広がっていきました。

 こうした取り組みの結果、1年で7名が退職した事業所は、翌年には退職者が0人に。人が辞めなくなったことでシフトが安定し、現場の雰囲気も改善。結果として採用コストも大幅に削減されるなど、経営面にも大きな効果をもたらしたのです。