メーカーの採用力Photo by Shintaro Iguchi

プラント制御機器大手の横河電機が、キャリア採用の人数を4倍にするなど採用を強化している。2030年までに売上高を2倍の1兆円まで伸ばす強気な中期経営計画を掲げているためだ。海外売上高比率が7割を超えるグローバル企業だが、社員の多くは東京勤務で転勤が少ないのが特徴だ。連載『メーカーの採用力 待遇・人事の真実』の本稿では、一般にはあまり知られていないニッチトップ企業の働き方を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

知られざるBtoB製造業のニッチトップ企業
“隠れた魅力”である「勤務地」を武器に採用増

 プラント制御機器大手の横河電機が採用に懸命だ。完全なBtoB(企業間取引)の業態のため、一般の知名度は低いが、グローバルでの存在感は大きい。2025年3月期の海外売上高比率は7割を超える。石油精製プラントのオペレーターが顧客であるため、地域別の売上高では中東とアフリカが日本に次いで多い。

 26年3月には26年度に賃金を改定し、管理職以外の組合員の月給を平均で4万3500円の賃上げをすると発表した。大卒初任給も4万円引き上げた30万円となる。賃上げにはボーナスの一部を月給に組み替えた分も含むが、大幅な待遇改善には違いない。採用で訴求力を増したい考えがある。

 採用に前のめりなのは、売上高を30年までに現在の2倍の1兆円に伸ばす強気な中期経営計画をぶち上げているためだ。会社全体の規模感を一回り大きくする狙いがある。キャリア採用数は5年前の4倍に当たる200人に、新卒採用は同2倍の70人に増えている。社員の平均年齢は過去10年、44~45歳で推移していてやや高めで、若返りの意図もある。

 主力事業は計測機器を用いた制御事業で、石油化学や電力、医薬品のプラントで設備を制御したり、製品を計測したりする機器を扱っている。採用の大本命はハードの機械工学を学んだ人材だ。近年、理系人材のソフト志向が強まり、メーカー各社は機械工学を学んだ“保守本流”の人材の確保に苦慮している。朝長正隆・人財総務本部長は「少子化に重ねてハードのものづくりを学ぶ学生の割合も減り、人材争奪戦は激しくなるばかり」と採用環境の厳しさを語る。

 実際のところ、20年ごろの採用実績は新卒は35人程度、キャリア採用は50人程度。売上高が5000億円規模のグローバル企業としては採用に苦戦していたことがうかがえる。

 横河電機は事業領域が完全に競合する企業は少ない。最も近いのは同じ制御・計測機器メーカーのアズビルだ。日立製作所や三菱電機の一部部門とも重なる領域があるため、人材採用では大手2社もライバルとなっている。

 横河電機は知名度と企業規模では日立と三菱電機に及ばないが、実は勤務地が隠れたアピールポイントになっている。

 JR中央線の三鷹駅と吉祥寺駅の間にある東京都武蔵野市の広大な敷地に、本社社屋や研究開発棟がそびえ立つ。約2200人いる社員の9割以上は武蔵野市に勤務している。

 一般に製造や研究開発の現場は広い敷地を必要とするため、都心から離れた地域での勤務が多く、異動があれば転勤も少なくない。競合する日立の社会インフラ部門は茨城県日立市に、三菱電機の社会インフラ部門は神戸市に拠点がある。アズビルの研究開発と生産の拠点は神奈川県の湘南エリアだ。

 自身が専門性を発揮できる領域で働くことは、特に理系人材においては勤務先を選ぶ重要なポイントであり、従来は、勤務地は二の次とする人が多かった。ただ、プライベートを重視する傾向が強まっている現代は、地方勤務は若い世代から敬遠されがちで、製造業の採用力を下げる要因となっている。どこで働きたいかは個々人の事情によるが、都内勤務を魅力に感じる技術者は少なくないとみられる。

 実際に、採用を強化している自動車メーカーや半導体メーカーでは、東京や横浜にオフィスを新設する動きが相次いでいる。

 そんな中、横河電機は長年「住みたい街ランキング」でトップを争うエリアで勤務する社員が大多数だ。甲府市と金沢市、東京都あきる野市、長野県駒ケ根市にも拠点があるが、人数の比率はかなり少ない。

 実のところ、同社関係者に尋ねると、勤務地が武蔵野市でかつ転勤があまりないことを魅力として挙げる声は少なくないようだ。では、グローバル企業であるにもかかわらず、転勤がほぼないのはなぜか。そこには海外展開を進める上での“あえて”の戦略があった。

 次ページでは横河電機の転勤が少ない理由と、電機大手に引けを取らない待遇を分析する。