教育・受験 最前線#35Photo:PIXTA

大学受験で「年内学力入試」がついに解禁された。この新方式で昨年、志願者2万人を集めた東洋大学は、2年目の今回は新配点で実施する。そこにある落とし穴とは?連載『教育・受験 最前線』では、連載内特集『大学入試2026』を10回以上にわたってお届けする。第5回は東洋大の年内学力入試を追うとともに、首都圏の私立39大学の44年間の偏差値推移データを一挙掲載。年内学力入試へ参戦する“次の大物”を探る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

「年内学力入試」が解禁
東洋大は全国に試験会場

 東洋大学が実施する年内に学力試験重視で選抜する方式、いわゆる「年内学力入試」の出願が10月29日から始まった。11月4日まで受け付け、試験は11月30日に実施される。

 同大は昨年に基礎学力テストだけの年内入試(「学校推薦入試 基礎学力テスト型」)をスタートし、これが教育業界で物議を醸した。文部科学省は東洋大に対し、「学力試験の入試は2月以降」というルールに違反していると指摘。関西では同様の方式が「公募推薦(公募制の学校推薦型選抜)」として定着し、「産近甲龍」(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)や「摂神追桃」(摂南大学、神戸学院大学、追手門学院大学、桃山学院大学)などの中堅私立大学群を中心に多くの大学が実施しているにもかかわらずだ。ルールは形骸化し、首都圏でも近年は面接などを伴う総合型選抜(旧AO入試)に基礎学力テスト重視型を設ける大学が出てきていた。

 そんな中で東洋大という、首都圏の大規模な有名大学が初めて、基礎学力テストのみの年内入試を実施し、しかも志願者を約2万人も集めたものだから、関西の慣行になじみがない高校の校長などが反発。ルールの議論に発展した。

 結局、面接や小論文などを組み合わせて評価することを条件に、年内に学力試験を行うことが容認された。要は、年内学力入試の解禁である。禁止されれば、関西は大学側だけでなく、高校側も、もちろん受験生も大混乱する。推薦を主体とした年内入試でも、学力を把握すべきだという視点もある。学力試験のみで合否を決めるのでなければ容認するというのが落としどころだった。

 騒動を経て2年目の年内学力入試を実施する東洋大は、縮こまるどころか、さらなる攻め手をみせた。1年目に地方国公立大学志望の併願者も多数受験していたことを受け、2年間は彼らをロックオン。前回は首都圏中心に試験会場を設けたのに対し、今回は北は北海道、南は福岡まで全国20カ所以上に会場を用意するのだ。

 東洋大は学力評価重視を入試の信条とし、年明けの一般選抜による入学者の方が年内入試による入学者の割合よりも多い。一般選抜比率(一般選抜による入学者が入学者全体に占める割合)は受験難易度の低い大学ほど低くなりやすいが、東洋大のそれは難関私立大学に引けを取らないレベルで高く、推薦を主とした年内入試へシフトする受験市場を強く憂えてきた。ただ、難関私大でも指定校推薦や内部進学で非一般選抜による入学者の割合を増やしている昨今、東洋大も青田買いの場でもある年内入試を軽視するわけにはいかない。そこで一般選抜の枠を削るのではなく、年内入試の枠内に基礎学力テスト型を盛り込んだわけだ。

「社会のボリュームゾーンを輩出するわれわれが、学力試験もしないでポンポン入れる大学でいいんですか。そんな将来は怖くないですか」と東洋大の入試部長である加藤建二氏は警鐘を鳴らし、年内であっても基礎学力を担保する入試にこだわりをみせる。

たった10点配点の小論文
なめると、痛い目に遭う

 東洋大の今回の年内学力入試(「総合型選抜 基礎学力型」)の配点は、基礎学力テスト(「英語と国語」または「英語と数学」の2教科)計200点、小論文10点、調査書等による書類審査10点。小論文は事前提出な上、課題内容は「東洋大学の建学の精神や教育の理念の中から、1つを選び、そのことに触れながら、東洋大学でどのような学びをしたいと考えているか、自らの経験を踏まえて自分なりの考えを400字以内で述べなさい」というものでハードルは高くない。

 全国高等学校長協会が6月に文科省の協議会宛てに出した意見書では、「今回一部の大学において、基礎学力検査が配点の9割を占める等、大学入学者選抜実施要項の定める総合型選抜や学校推薦型選抜の趣旨とは異なり、一般選抜と大差ない入学者選抜が総合型選抜や学校推薦型選抜実施の実施時期に行われることが示され、昨年度の混乱を収めるどころか、要項の抜け道を探るような高等教育機関としてあるまじき状況が見受けられる」とチクリと攻撃されている。

 確かに、ルールをクリアした上で、学力重視に寄った試験である。しかしながら、受験生がたった10点の小論文をなめると、痛い目に遭う。2年目の年内学力入試は、ここが「落とし穴」になりかねない。

 それはどういうことなのか。次ページでは落とし穴の正体に迫る。また、首都圏の私立39大学の44年間の偏差値推移データを一挙掲載(「早慶上理ICU」「GMARCH」などは次回以降)。年内学力入試へ参戦する“次の大物”を探る。