ネクスペリアはなぜ中国資本になった?
米中対立激化の的にされた顛末
ネクスペリアは元々、オランダの総合電機メーカー・フィリップスの半導体事業だった。フィリップスは2006年に半導体事業を分社化し、NXPセミコンダクターズとして再出発した。しかしその10年後、NXPは汎用型パワー半導体事業を、中国の政府系ファンドを含む投資家連合に売却した。
こうして17年、中国投資ファンド傘下でネクスペリアというブランドに変わり、18年には中国の聞泰科技(ウイングテック)が、252億元(当時の為替レートで約4100億円)でネクスペリアを買収した。
ウイングテックはスマホ受託製造の世界大手であり、同社には中国政府も出資している。そのため米国政府内では、軍事転用可能なチップメーカーの中国資本傘下入りを危険視する見方もあった。とはいえ18年時点では買収を阻止するまでには至らなかった。
ウイングテック傘下においてネクスペリアは、基板に回路を形成する前工程をドイツ工場で、基板からチップを切り出しケースに封入する後工程は中国工場で行うようになった。
翻って一連の買収後、米中対立は一気に激化した。オランダには世界で唯一、極端紫外線(EUV)を使った半導体露光装置メーカーのASMLがある。ASMLもフィリップスに源流を持つ。
第1次トランプ政権、その後のバイデン政権は、米国由来の半導体製造技術や知的財産が中国に流出するのを阻止しようとした。中国企業を対象に禁輸措置を拡大。24年末にはウイングテックを経済安全保障上、懸念の高い企業に指定した(エンティティ-・リストに追加)。事実上の禁輸措置だ。
オランダ政府としても、ネクスペリアの知的財産の対中流出を食い止める必要が高まった。今年9月オランダ政府は、物品供給法を根拠にネクスペリアを接収した。表向きの理由は、ウイングテック経営陣による事業運営の妨害だ。
報復措置として中国政府は、ネクスペリアのチップ輸出を事実上停止した。10月下旬、オランダは、中国広東省にある工場向けの半導体基板供給を止めた。それが今回、大手自動車メーカーの生産停止にまで発展したのだ。
ネクスペリアの車載用半導体の中には、世界シェアが最大で40%近いものがあるといわれている。中国工場からの輸出停止、欧州からの部材供給停止で、世界の自動車関連分野への打撃は拡大している。







