その人は、席を譲ってくれたのかもしれませんし、もしかしたら単に、別の車両に知り合いの姿を見つけて、その人のところに移動していっただけなのかもしれません。将来何が起こるのかが誰にもわからないのと同じように、他人が考えていることは、いくら考えてもわかるものではないのです。

 人はコミュニケーションをする時、相手が発する言葉だけでなく、表情や姿勢、声のトーンなどのさまざまなところから情報を得て、相手が何を言おうとしているのかを読み取ろうとしています。つまり、日頃から、相手の心を読もうとしているわけです。そのすべてが良くないというわけではありません。

 ただ、行き過ぎると、根拠もないのに「相手はこう思っているに違いない」と決めつけ、要らぬ負の感情にむしばまれることにつながってしまいます。

 子育てでは、学校の先生、子どもの同級生の保護者たち、近所の人たち、夫、妻や子ども本人に対しても、無意識のうちに「心の読みすぎ」を発動していることがあるものです。

自分の考え方のクセを知ると
気持ちが楽になる

 でもそこで、「そういえば、ものごとの受け止め方のゆがみのパターンの中に、『心の読みすぎ』というのがあったな」と知っていれば、「今の私は、『心の読みすぎ』に陥っていないかな?」と気を付けられるようになるかもしれません。

「ゼロヒャク思考」も「勝手な未来予知」も同様です。存在を知っていれば、自信をなくして落ち込んでいる自分に対して、これらのゆがみが発動していないか、立ち止まって気を付けることができるようになります。

 こうした認知のゆがみは、誰でも持っているものです。もちろん、私もそうです。ただ、私はたまたま精神医学の知識があるので、子どもの将来への不安で押しつぶされそうになった時にも、「ちょっと待って。もしかして今の私は、『勝手な未来予知』に振り回されているんじゃないかな?」とブレーキを踏むこともできるのです。

 クセというのは、「自分にはこんなクセがあるんだ」と認識しない限りは、なくしたり減らしたりすることはできません。持っていることが良い・悪いということではなく、その存在を知ることで、少しでも楽な気持ちで、自分を追い詰めることなく子育てができるようになればと思います。