性別関係なく用いることができる
万能な呼称「さん付け」

 上司・年上が同性か異性かも「ちゃん付け」を含むトーンを左右する超根本の要素である。基本的に同性同士なら問題なさそうに思えるが、私(1980年生まれ)と同年代のある女性は「自分が女性上司から『ちゃん付け』されるのはうれしいが、女性の後輩・年下を呼ぶ際は『ちゃん付け』しないように配慮している」と語った。

「ちゃん付け」呼びでむやみに冒険して相手に不快な思いをさせたり相手を傷つけたりしたいわけでもない。昨今は性自認の多様化もあるから、そのことも踏まえると性差関係なく用いることのできる「さん付け」がいよいよもって万事そつなく有用ではある。

「ちゃん」を付けるのが苗字か名前かでもかなり印象が異なる。私の武藤弘樹という名を例に取ると、「武藤ちゃん」と呼ばれるのは違和感ないが、「弘樹ちゃん」「弘ちゃん」と呼ばれるなら一気に違う温度感になる。

 年上男性はまず下の名前をちゃん付けで呼んでこないから想定しても詮無い(呼び捨てはよくある)として、年上女性からの「弘樹ちゃん」はというと、だいぶ色が出てくる。

 男性が女性を「ちゃん付け」で呼ぶ際も、「名前+ちゃん」よりかは「苗字+ちゃん」の方が問題は少なさそうに聞こえる。

 ちなみに私は年下の女性を呼ぶに当たって、あだ名以外は「さん」で統一している。

「ちゃん付け」をするのが昔から恥ずかしくて抵抗があるのがまず一番の理由で、「さん」呼びは消去法的に決定されたが、年下女性を「さん」で呼ぶ男性が少ない中にあってあえてそうしている紳士っぽさが好ましく思ってもらえるのではないかという期待と打算が、ぶっちゃけないわけではないが、それはここだけの秘密である。

 先に紹介した例の、年下女性を「ちゃん付け」しないようにしている女性は、年下男性への「くん付け」も避けるようにしているらしい。細やかな配慮である。

 思えば「くん」というのもかなり天衣無縫な敬称で、辞書的な意味だと同輩か目下の人に付けるものだが、幼き頃生活を通してその身に一番最初に刻まれる用法は「男の子は『くん付け』」という、辞書の意味とはまったく別のものである。