70歳以上議員の“足切り”~これは世代交代圧力?

 今期立法会もあと1カ月で終了という9月末、9年余り立法会主席(議長)を務めた梁君彦氏が、「次期選挙には出馬しない」と宣言した。同氏は産業界枠である「効能組」の工業界代表として2004年以来議員を務めてきたが、すでに74歳。このため、梁氏の「後進に席を譲る」という説明は周囲にすんなり受け入れられた。

 しかし、10月に入ってから、同じく70歳を超えた現役議員たちが続々と、不出馬宣言を始めたのだ。「愛国者治港」よりもずっと前から議員だった人たちで、市民にとってもなじみ深い面々である。歳はとったもののまだまだ元気で、経験豊かな議員たちの引退宣言はあまりに不自然だった。

 そこから、「70歳以上に出馬圧力がかかっている」という噂が広がった。もちろん、噂は噂でしかないが、今の香港で選挙のムードを左右できる筋はただ一つ−−中国政府の香港出張事務機関「中央政府駐香港連絡弁公室」しかなかった。

 加えて、中央政府駐香港連絡弁公室の機関紙である「大公報」が10月初めに、「香港は『由治及興』の新たな段階に入った」と述べ、立法会にも「新たな考え方や新たなパフォーマンスが求められる」とする論説を掲載した。

「由治及興」とは、国家安全法制定以降、中央政府駐香港連絡弁公室が使う表現で、「統治から繁栄へ」という意味である。つまり、大公報は、「これからさらに新しい時代に入るのだから、もう古い人間はいらない」と言っているのに等しい。そんな論調からも、「70歳足切り」圧力は実際に存在すると多くの人たちが確信を持つようになった。

 年齢切りといえば、かつて中国共産党内にも「七上八下」という定年ルールが存在し、政府首脳も67歳まではOK、しかし新たな任期中に70歳を迎える68歳以上はそこで引退とされていた。しかし、3年前に70歳を目前にしていた習近平が何食わぬ顔でそれを反故にして以来、もう重視されなくなってしまった。

 それが香港で、それも中国政府の出張機関によって「蘇った」のだから、皮肉な話である。その結果、10月末の今期立法会会期の終了までに、70代の現役議員12人中10人が不出馬を表明した。

 そして、「70歳足切り」圧力がほぼ現実として受け取られた時、人々の関心は、75歳の葉劉淑儀(レジーナ・イプ)議員の動向に向けられた。