タスクとスキルの明文化が「Borrow」のために必要

 このような話をすると、「最近では副業が当たり前になってきているし、副業人材マッチングビジネスも拡大してきている。日本でも、副業やフリーランス人材の活用は当たり前になってきているのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本での副業はまだまだ黎明期で、拡大の余地が大きいと言えるでしょう。2022年に経団連が実施した調査(*5)によると、70.5%の企業が社員の副業・兼業を「認めている」、または「認める予定」と回答している一方で、社外からの受け入れを「認めている」、または「認める予定」と回答した企業は30.2%で、そのうち、既に「認めている」企業は16.4%に留まっています。

 企業の副業人材活用(=Borrowの一手段)と副業解禁の動きは表裏一体ではあるものの、自社の社員が他社での副業を容認する「貸す」動きが進む一方で、企業が副業・フリーランス人材を自社で受け入れる「Borrow(借りる)」の動きは、まだ道半ばであることがわかります。「Borrow(借りる)」が進まないのにはさまざまな理由が考えられ、ひとつには、「正社員雇用と比べて、副業やフリーランス人材への業務委託は、なんとなく不安」という純血主義や雇用至上主義に影響される心理的ハードルがありますが、これは副業・フリーランス人材の活用が普及するなかで段階的に改善されるでしょう。

 それよりも構造的な原因のひとつと考えられるのが、企業側で、“タスクとそれを遂行するのに必要なスキル”の明文化が進んでいないために、フルタイムの正社員雇用ではない副業・フリーランス人材などに仕事を切り出しにくい点です。メンバーシップ型雇用中心の日本では、職務の明文化がされていない企業も珍しくなく、欠員が出た場合でも「Aさんと同じような経験をしている人を採用したい」となったり、新規事業開発でも「新規事業の企画・推進の経験がある人」という曖昧な表現になったりしがちでした。2010年代後半から、ジョブ型雇用に移行した企業を中心に、職務の明文化はある程度進みましたが、まだ曖昧な部分が多く残っていたり、そのタスクを遂行するために必要なスキルが不明瞭であったり……という話をよく耳にします。人事の方とお話をしていても、「Borrow(借りる)」の必要性は強く感じているが、仕事を切り出すことが難しいという企業は珍しくありません。社員のスキルの可視化が進んでいる企業は、これから、ジョブをタスクとその遂行に必要なスキルの明文化を進める必要があるでしょう。

*5 一般社団法人 日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケ―ト 調査結果」(2022年10月)より