「Buy (採用)」「Build (育成)」とともに必要な、アルムナイの「Borrow(借りる)」

「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が注目されている。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係(アルムナイ・リレーションシップ)を築いていくかは、人材の流動性が高まっている時代で重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続き、著書『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』(日本能率協会マネジメントセンター)も多くの読者に読まれている、「アルムナイ」知見についての第一人者・鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)の「HRオンライン」連載=「アルムナイを考える」――その第12回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回 「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく
>>連載第7回 「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと
>>連載第8回 いま、このタイミングで、“アルムナイ”の書籍を執筆して気づいたこと
>>連載第9回 メンバーシップ型の日本企業こそ、アルムナイ・リレーションシップをつくる意味がある
>>連載第10回  目的が「再雇用だけ」ではNG!――人事部からアルムナイへのアプローチ方法は?
>>連載第11回  「退職者インタビュー」の重要性とは?辞めた人の声があなたの組織を変えていく

スキルベース時代の“ポートフォリオ”とは?

 2023年にリクルートワークス研究所が発表した研究報告書(*1)にある「労働需給シミュレーション」によると、2023年には13万人だった労働供給不足が、2040年には1,104万人となり、17年の間で80倍以上になると予測されています。1,104万人の労働供給不足と言われてもイメージがつきにくいので、例えを挙げると、総務省統計局の「労働力調査」(*2)によると、2024年の東京都の就業者数は844万7千人なので、現在の東京都の就業者数以上の労働供給が不足するということです。

 OECD(経済協力開発機構)による、2021年の国別就業者数の発表(*3)を見ると、1,376万9千人のオーストラリアがこれに近い規模と言えます。いずれにしても、相当な労働供給が不足することがわかります。当然のことながら、国や企業はAIなどのテクノロジー活用によって労働生産性向上を推進し、労働需要の抑制を図りますが、1,104万人の労働供給不足が10分の1になるなどということは考えにくいでしょう。

 これだけの労働供給不足が予測されるなか、企業はどうやって「人材ポートフォリオ戦略」を最適化していくべきなのでしょうか。経営戦略や事業計画に基づき、「いつ、どこに、どのような人材が、どれくらい必要か」という人材の構成を決め、それを実現する人材ポートフォリオ戦略において、実行の中心となるのは採用、育成、そして、配置の最適化とも言えるものでした。しかしながら、個人の働き方が多様化するなか、いままでどおりの「採用・育成・配置」だけでは、自社が必要とする人材を十分に獲得できない企業がこれまで以上に増えてくると考えられます。

 外国人労働力の受け入れなどを進めても、ここまでの労働供給不足を補うほどに就業年齢人口が急増することは考えられません。そのため、労働力を人数単位で“調達”をするという考えが限界を迎え、個人が持つ経験やスキル単位で“調達”をするという考えへのシフトが始まっています。いままでは「他の会社で採用業務をやっていた人を1名探そう」となっていたのが、「広告運用を20時間できる人、スカウト業務を50時間できる人、面接業務を25時間できる人を探そう」のように変化するのが一例です。人材ポートフォリオ戦略が「スキルポートフォリオ戦略」に変化していると言えるかもしれません。

*1 リクルートワークス研究所「Works  Review 2023」より
*2 東京都「東京の労働力(労働力調査結果)」より
*3 「OECD Labour Force Statistics」より