ライエン欧州委員長は、12月10日に決めるはずだった政策の方向性を、「来年の初めには……」と先送りしてしまった。が、それも決められるか未知数だ。

 そんな中で自動車メーカーから要望が出ていたEカー構想は、欧州政府にとって有権者と環境NGOの両方に「いい顔」ができる格好の材料となった。

 新規格のEカーなら「従来の乗用車とは区分けが違う」と言い訳ができる。規格の正当性は、「環境負荷が小さい!」を盾に正義性を主張しやすい。

CO2排出量は日本の軽が圧勝

 現在、クルマを作るための資源採掘から製造、使用、リサイクルまでの温室効果ガス排出量を総カウントする計算法の研究が進められている。こうした研究もあって、クルマのCO2「総」排出量は、従来値より圧倒的に多いという試算が続々と出てきている。

 世界的に人気が高まっている全長4m半ばのCセグメントSUVと、日本の軽自動車を比較すると、CセグメントSUVをBEVにしようがHVにしようが、CO2排出量には雲泥の差がある(日本の軽が圧勝)。

 2024年にルノーのメオ元CEOが出したEカーの提言は、「小型車のライフサイクルCO2排出量は、中大型車の4分の1」という内容を含んだ。欧州政府が面目を保ちやすい新規格の創設と、その規格に社会正義があると分かりやすく訴えたことは、欧州政府の重い腰を上げさせる、巧みな話法だった。

 このEカー、普通乗用車と明確に区分けするため、車体サイズや原動機の出力ないし排気量に厳しい枠を設定するはずだ。一方で、実際にどういう規格になるか詳細は未定である。が、その規格によっては、軽自動車の技術力なら世界一である日本メーカーにとって、とんでもなく大きなチャンスとなる。

 そもそもEカー構想は、欧州の自動車関係者が言う「K-Car」、すなわち日本の軽の規格に範を求めたものだ。日本の軽自動車は(1)限定された寸法でクルマとしての機能を成立させる技術、(2)低所得者層の負担軽減という社会システム、の両面で高く評価され尊敬されている。