原作者が抱いた葛藤「男同士の結婚は、人に笑われてしまうものなのか?」

 息子である南和行は、脚本がほぼ何も仕上がっていないという劇団の窮地に「原作者の僕が書きます」と宣言、人生初の劇台本をたった2週間で書き上げた。「台本がちゃんと作品として伝わるか」と心配で、公演中は連日劇場に張りついた。

「はじめのうちは、お客さんの反応が少しずつ聞こえてきてホッとするやら、よけいに緊張するやらで」と、全公演を終えて再度インタビューに答えてくれた南は苦笑した。

「同性愛や異性愛関係なしに共感した」とか、「泣いてしまった」「同性愛者であることを隠して生きることがそんなにも苦しいことだったとは初めて知った」などの感想が飛び交い、劇団としても久しぶりのオリジナル新作に全公演が満員御礼との異例の事態で、現場にはかなりの高揚感があったという。

「世間にはよう言わん」息子の同性愛を認められなかった母が「100%受け入れられる」と確信した出来事舞台「カラフル」関係者。(後列左より)上村泰之(南)役・椎名一浩、上村良枝(ヤエ)役・今本洋子、早瀬真人(吉田)役・村上和彌、(前列左より)南和行、南ヤヱ、吉田昌史(筆者撮影)

 だが、同性愛者である自分の人生を素材にしてエンタメを制作するという体験を経た南には、いわば“私小説の葛藤”と呼べる感情があったようだ。

「第2幕の結婚式の場面で、司会者役の役者さんの『新郎と新郎の入場です』というセリフのあと、客席からドッと笑いが起こったんです。結婚行進曲のファンファーレと共に僕と吉田を演じる二人の役者さんがタキシード姿で出てきて腕を組んだところでも、またドッと笑いが起こって。僕は自分自身の物語として、正直、悲しくなった。男同士の結婚は、やっぱりまだまだ人に笑われてしまうものなのか、って」(南)

「新郎と新郎の入場」。そこは笑うところじゃなかった。その表現があの日のレストランウェディングの空間に響くまで、誰のどれだけの思いや苦しみがあったか、それを描いた劇だったのではなかったか――。

 しかし、あの劇を中野まで楽しみに見に行った観客に悪意があったとは、私には思えない。手ずからの脚本であると南本人から聞かされて上演を見に行った私は、結婚式の場面に涙を拭う吉田やヤヱの背後から、南役と吉田役の二人の晴れ姿を「よかった、本当によかった」と自分も涙を拭き拭き見ていたくらいだ。

 もともと、南と吉田とヤヱらしい温かなユーモアに満ちたこの舞台。そのユーモアの延長線上で観客に起きた笑いは、きっと、絶対に、嘲笑などではなかったはずなのだが、観客の“観(み)かた”が当事者の思いと完全にシンクロするかは“作りかた”の問題でもあり、どんなに技術や経験のあるプロにも簡単なことではない。