市民の間ではそれは人災だとみなされ、さらに政府の監督が行き届いていなかったことへの非難が巻き起こった。
署名活動を行った大学生が逮捕された
一方で見事だったのは、火災発生とほぼ同時に、1000人近くの市民たちが被災者支援に三々五々集まり、それぞれに衣類や布団、水や食べ物の無償供給や配送、分配など、できる限りのさまざまなボランティア活動が展開されたことだ。「訓練有素」(日頃の訓練あり)――あの市民の熱意に2019年デモを支援した人々の行動力を思い起こさなかった人はいなかったはずだ。
その中から、ある大学生が中心になり、被災地区の街頭に立って署名活動を始めた。「引き続き、被災した住民の支援を」「独立調査委員会を設立せよ」「新たに工事監督制度を見直せ」「当局の管理監督の過失と責任を全力で追及せよ」とする「四つの訴え」は、不安を抱えつつも見守っていた人たちも、「政治性もないし、大変理性的で納得できる内容」と評価した。一部、「『訴え』じゃなくて『要求』とすべきだ」と呟いているのを筆者は目にしたが、ここで「要求」とはせずに「訴え」という言葉にトーンダウンしたところに、発起人たちの苦渋の判断を感じた。
だが、当局はなんと、この「四つの訴え」署名活動を始めた大学生を、香港国家安全維持法(以下、国安法)違反で逮捕してしまった。
それとほぼ同時に、中国政府直属の駐香港国家安全公署(以下、国安公署)が、「反中乱港分子がこのチャンスを利用して撹乱を試みている。虚偽の情報を振り撒き、行政長官や特区政府への恨みを煽動している」とする声明を発表、「災害を利用して香港を混乱に陥れようとする者を厳しく取り締まるべきだ」と主張した。「反中乱港」とは「中国に反対し、香港を乱す」という意味で、2019年の香港デモ以降、中国政府が敵視する活動家らにつけられた、市民にとっては見慣れたレッテルだった。







