金融インサイド#14Photo:PIXTA

上場する中堅企業などで資本政策に関する相談相手がいない「投資銀行難民」が問題になっている。時価総額から逆算して算出される収益が、メガバンクや大手証券グループの求める水準に達しておらず、支援の手が回らないためだ。この状況を打開するには、地方銀行の「ミドル投資銀行」化が不可欠だ。長期連載『金融インサイド』の本稿では、地銀が担うべき投資銀行としての役割を中心に、首相などの諮問機関である金融審議会の委員が解説する。(東洋大学国際学部教授 野崎浩成)

「地域金融力強化プラン」の報道に違和感
実効性高いソリューション提供が中核

 金融審議会の作業部会である「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」は2025年12月、報告書を取りまとめた。これを踏まえ、金融庁は同月に地域金融力強化プランを発表した。

 ただ、作業部会の委員としての立場からすると、メディアによる取り上げられ方は、報告書やプランの本質とはかけ離れており、違和感がある。

 従来の再編に伴う統合コストに補助金を出してきた「資金交付制度」の拡充がその一つだ。経営統合を伴わないケースでも経営効率の向上に資するシステム共同化事業などにも対象を広げ、上限額を大幅に拡大した部分が注目を浴びている。

 また、資本基盤を強化するための「資本参加制度」の恒久化を視野に延長するところも、もう一つの注目点である。いずれも金融機能の強化のための特別措置に関する法律(金融機能強化法)改正を伴うものとなる。

 しかし、こうした法改正は、あくまでも地域経済を支える金融機関の持続可能性を高める、いわば地域金融力の「必要条件」を充足するにすぎない。

 なぜなら地域金融力の目指すところは、地域経済を繁栄に導くため、金融か非金融かにかかわらず事業者の経営課題に対するソリューションを提供すること、そして魅力あるビジネスを地方で花咲かせる点にあるからだ。

 金融庁は毎年、地域金融機関をメインバンクとして取引のある企業向けにアンケートを実施している。そこで銀行などに期待するニーズとして年々高まっているのは、資金繰りなどの金融サービスではなく、販路拡大、人材紹介、事業承継・転換などの事業戦略上の経営課題への対応である。

 「顧客向けソリューション」は何年も前から繰り返しいわれてきたが、まさに実効性の高いソリューションを適時適切に提供できるかが、地域金融力の中核を成すだろう。

 作業部会の報告書には、銀行が保有する投資専門会社の業務範囲にM&A仲介業務を含むべきだとの方向性が盛り込まれた。次ページでは、これが意味することに加え、投資銀行難民が多い背景を解説する。

 そして、地銀が期待される「ミドル投資銀行」としての役割についても論じたい。