インベストメントバンカー M&A請負人の正体#6Photo by Yoshihisa Wada

日本最大の金融グループの顧客基盤と、米ウォール街の知見。この「日米最強のハイブリッド」を武器に、2025年のメガディールをことごとく射止めたのが三菱UFJモルガン・スタンレー証券だ。同社の投資銀行部門を率いる別所賢作副社長は、複雑化する現在のM&Aを、知略と体力の双方が問われる「総合格闘技」に例える。長期連載『金融インサイド』内の特集『インベストメントバンカー M&A請負人の正体』の#6で、僅差の勝ちを積み重ねるためのプロフェッショナル哲学と、さらなる巨大案件の波を見据えた「3年で1割」という強気の人材拡充策の全貌に迫る。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

バブル後30年の停滞を破る変革の源泉
資本効率とガバナンスが促すメガディール

――2025年を振り返ると、NTTデータグループやSCSK、豊田自動織機の非公開化などメガディールが相次いだ一年でした。御社はその多くに関わっておられる。

 残念ながら全てではないですが、その多くに関わらせていただいています。

――これだけ大型案件が増えている理由をどう考えますか。

 ご指摘の通りM&Aを中心に企業活動が活発化し、そのダイナミズムとスピード感が増しています。それが偶然に積み重なり起きているのかというと、そうではない。根本的なところでつながっているものがさまざまな形で現れ、今の事象が起きているとみています。

 それは何かというと、一番の根源は少子高齢化に伴う経済の成熟化、ないしは停滞に対する危機感です。

 戦後の高度経済成長は、銀行中心の「バンクガバナンス」により、資金配分も含めて計画・統制された経済が非常にうまくいきました。成長過程においては、余計なことをするよりもプログラムに沿って物事を進めていく方が、安定かつ順調に成長できたのです。しかし、それがバブル経済によって一気に否定された。

 それまでの成功体験があまりにも強かったため、バブル後の30年間は転換を図れなかったというのが、私どもの大きな捉え方です。では、25年に日経平均株価が30年ぶりに4万円を突破したのはなぜか。経済の停滞への危機感と、一方で依然として強い企業経営者の「現状バイアス」とのせめぎ合いがあり、それが一気に崩れ始めてダイナミズムが大きく変わったのです。

 もちろん企業の自発的・能動的な意識変革もありますが、その大前提として、政府がコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを導入し、企業と投資家の双方に「資本市場を意識して積極的・活発な議論をしてください」と促している背景があります。

 さらに、それに呼応する形で東京証券取引所がいわゆるPBR(株価純資産倍率)改革を打ち立てました。日本取引所グループの山道(裕己CEO)さんとも何度もお話ししていますが、あれは確信犯的な施策です。日本企業が「PLで増収増益を確保していればそれでいい」という考えから脱却しなければ、グローバルプレゼンスは地盤沈下してしまう。政府や証券取引所といった公的な機関の危機感があり、それに呼応してさらなるガバナンス強化や対話の促進が求められているのです。

 こうした環境下で、アクティビスト(物言う投資家)を中心とする人々が「これはおかしいのではないか」と声を上げ始めた。彼らの主張の全てが正しいとは思いませんが、少なくない部分に一理ある内容が含まれており、企業側も「やはりそうだよな」と考え始めています。これが、この1、2年の大きな変革の源泉だと考えています。

 この流れが、案件の大型化につながっているのです。

なぜ日本企業は今、次々と「非公開化」や「事業売却」という痛みを伴う決断を下しているのか。その背景には、かつての成功体験を否定してでも成し遂げなければならない「非連続な変革」への危機感があると別所氏は指摘する。一方、急加速する変革の陰で、買収価格を巡る株主との対立や利益相反といった新たな火種もくすぶる。激動のマーケットで僅差の勝利を手繰り寄せる執念と、銀行員らがインベストメントバンカーとして大成する具体的な条件を、別所氏が次ページで明かす。