ベネズエラ攻撃で明らかになった
日本の安全保障におけるリスク
今回のベネズエラ攻撃は、アメリカの国家安全保障戦略という観点から見ると、日本も無関係ではない。むしろ、重要な問題をはらんでいるというべきだろう。
日本としては、今回の件は、これまで暗黙の前提としてきた「アメリカの関与のあり方」が明確に変わったことを自覚すべきだ。
トランプ政権の国家安全保障戦略が示した最大の変化は、アメリカはもはや国際秩序の全体を管理するつもりはないという点にある。
アメリカは安全保障の関与における優先順位を、新安保戦略で次の三段階に定めた。
最優先地域:アメリカ合衆国
優先地域:西半球(南北アメリカ大陸と周辺)
その他の地域:関与は限定的・条件付き
日本や台湾がある東アジアは、南北アメリカ以外の地域と比べれば相対的には重要地域に定義づけされているが、もはや西半球のような「優先」レベルではなくなっている。
これは、日本が戦後から一貫して安全保障をアメリカに依存してきた根拠が失われたことを意味する。有事であっても、アメリカが自動的に全面関与するとは限らず、あくまで法の範囲でしか守ってもらえない可能性もあるという現実を突きつけているのである。
今回のベネズエラ武力介入が示したもう一つの重要な点は、アメリカが他国を評価する基準が大きく変わったことだ。
従来のような「民主主義か独裁か」あるいは「人権を守っているかどうか」ではなく、「国家機能が犯罪に利用されているか」や「他国、特にアメリカ社会に直接的被害を与えているか」が評価基準になったのである。
国家と非国家主体、合法と違法、戦争と犯罪の境界が曖昧な地域には、この論理が適用される余地がある。
これは、日本周辺の安全保障環境を考える上でも重要だ。たとえば、日本国内でフェンタニル製造に関わったことが明らかになったが、そのようなことが続けば、日本も同盟国どころか制裁対象になりうる。
同じようなことはマネーロンダリングや先端産業の関与についても言える。
トランプ政権の戦略の特徴は、治安問題を国家安全保障に格上げした点にある。アメリカはそれらを国家安全保障の中核に組み込み、司法・制裁・軍事を横断的に用いるようになっている。
麻薬、密輸、サイバー犯罪、偽情報、マネーロンダリングなどは日本では長らく「警察の仕事」として扱われてきたが、対米関係を考えると、今後は安全保障問題として国ぐるみで取り組む必要がある。
日本が従来の枠組みのままでいるならば、日米間で「安全保障の定義そのもの」がずれていく可能性がある。
アメリカが関与の優先順位を再定義した以上、同盟国にはこれまで以上に「自助」と「分担」が求められる。
日本にとって重要なのは、日本周辺で起きる事態を、日本自身がどこまで対処できるのか、アメリカに頼る領域と、自国で完結させる領域をどう線引きするのかを明確にすることだろう。
問題はこれが「トランプ大統領期の一時的な現象」なのか、今後も続く長期的な傾向なのかがまだわからないことだ。断言はできないが、アメリカの国際的な影響力の低下は避けようがなく、長期的な傾向だととるべきではないだろうか。
今回のベネズエラ攻撃は、アメリカは自国の死活的利益がかかる地域では躊躇なく行動するが、そうでない地域では抑制的になるという現実を示した。この構造を理解せずに、「日米同盟は不変だ」と繰り返しても虚しいだけである。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)







