――両立支援の事例を教えてもらえますか。

 50代女性でコーポレート部門所属の社員のケースを紹介します。この社員は、8年前にお母様に認知症の症状が見られるようになり、電車で1時間離れたご実家に弟さんと交代で通っていました。当初は年次有給休暇を使って外出に付き合っていましたが、症状が進行して、同居されているお父様の負担が大きくなると、デイサービスを探し始めました。

 毎週いろいろなデイサービスに見学に通っても、本人の希望や空きなどとの兼ね合いで決まるまで半年かかり、この時期が一番大変だったそうです。特別休暇を半日単位で利用し、在宅勤務も組み合わせて休職せずに両立されました。

 その後、在宅介護が難しくなりましたが、特養(特別養護老人ホーム)への入所まで半年待つ必要がありました。現在はお母様は施設に入所され、定期通院の付き添いやお父様の日常生活のサポートにフレックスや在宅勤務、特別休暇を活用しています。

――25年4月施行の育児・介護休業法等の改正には、どのように対応されましたか。

 今回の法改正では、介護離職防止のための両立支援制度の強化を目的として、早期の情報提供と意向確認が義務化されました。当社では二つの対応を強化しました。

 一つ目は、早期の情報提供です。法律では40歳を迎える社員への情報提供が求められていますが、当社ではプラスアルファで、初年度となる25年は、40歳以上の社員全員と、さらにはその管理職全員に対して会社の制度や国の制度について個別メールで情報発信しました。

 二つ目は、面談の必須化で、意向確認は上司と本人との面談を基本とするルールにしました。面談の際には介護両立ハンドブックに掲載している面談シートを必ず使用するように案内しています。

――今、実際どのくらいの社員が制度を利用していますか。

 現状、介護休職の利用者は少ないですが、特別休暇を利用している社員は花王単体(編注:7861人<2024年末>)で年間100人以上います。 

介護当事者の座談会の成果
制度を利用しやすい風土作り

――今後の取り組みの拡充についてはどのように考えていますか。

 25年は法改正を受けて情報提供の強化と面談の必須化を行いましたので、年度末にその効果を分析したいと考えています。実際に制度を利用する社員が増えているのか、面談を通じて両立がスムーズになったかどうかなど、結果を見て改善につなげていきたい。

 もう一つ力を入れたいのは、当事者同士が集まって話ができる場の提供です。以前から社内アンケートで「同じ境遇の社員と話がしたい」という声を頂いていました。先日トライアルで数人規模の座談会を実施したところ、「他の方の経験を聞けてよかった」「自分だけではないと分かって安心した」「解決策がなくても話を聞いてもらえるだけで気持ちが楽になった」という声がありました。今後、この取り組みを少しずつ拡大していきたいと考えています。

――貴社や澤田さんのご経験を踏まえて、企業の人事部や、介護に直面しているビジネスパーソンにアドバイスを頂けませんでしょうか。

 仕事と介護の両立を考える際、育児との違いとして幾つかの特徴があると思います。「いつ発生するか分からない」「誰に発生するか分からない」「管理職も含まれる可能性が高い」「いつ終わるか分からない」「状況が個人によって大きく異なる」という点です。

 会社としては、まず選択肢を増やすことが必要ですが、社員が自分の状況に合った制度を選べるように周知することまでをきちんとフォローしたいと考えます。

 今後介護する人はどんどん増えていく可能性が高いですし、そういうときにちゅうちょなく制度を使い、両立している、そういう状況が普通だといえるくらいの組織風土の醸成がやはりポイントになってくると思います。

 そのためには、制度を整えて、使いやすい環境になっているだけでは不十分です。自分の親の介護をするにあたって何が必要で、数ある選択肢の中から何を選ぶかは、社員本人です。まずは社内に制度があることを知ってもらうこと、そして「地域包括支援センター」という公的な相談窓口があること、要介護などの認定を取ることが大切なことを知っているだけでも、いざという時の対応が変わってくると思います。

 社員自身に主体的に考えて動く力を身につけてもらうことが何より重要で、花王ではそこにも力点を置いて啓発活動を進めています。