ただし、スパイはカットアウト(追尾者を振り切る技術)の訓練を受けており、強引に追いかけると調査がバレてしまい、帰国するまで全く動きを見せなくなることもある。そのため、高い尾行技術のもと、隠密裏に監視することが求められる。

 司法警察権は持たないが、防衛省の自衛隊情報保全隊も類似した活動を行っている。外国のスパイにとって最大のターゲットは自衛隊で、実際にいくつものスパイ事件が起きている。情報保全隊も尾行監視や情報収集のレベルが高く、自衛隊を守るための部隊が全国に散らばっている。

防衛省OBが懸念する
スパイ防止法の「負の側面」

 日本はこうした活動に加えて、法規制の観点からも、外国からの機密情報収集を防ごうとしている。その旗手となっているのが、衆議院解散で議論を呼んでいる高市早苗首相だ。

 高市首相は「スパイ防止法の早期制定」を優先課題に設定し、内閣情報調査室の改組・拡充を進めている。合わせて、各省庁に散らばる情報を一元管理する「国家情報局(仮称)」の創設に向けた具体案を作成している。

 とはいえ、スパイ防止法はまだ検討段階であり、骨子が固まっているわけではない。こうした中で、筆者は何度か永田町に出向き、同法についての意見陳述を行ってきた。

 この際、筆者は警察権限の強化や、スパイと見なされた外国人への厳罰を盛り込んだ法案には慎重な姿勢を示した。

 その一方で、「スパイの手口」を国民に伝える啓蒙活動や、通報・相談体制の整備といった、リテラシーや連携を高める仕組みづくりを重視するよう提言した。

 というのも、国民にスパイの知識がないまま、疑惑がある人物への規制や罰則だけが先行すれば、「スパイ防止法は人権侵害ではないか」といった議論が噴出し、国防や安全保障とは別次元での論争で世論が分断されかねない。