標的の「子供の死」につけ込む
スパイの巧妙な手口

 プロのスパイは初回の接触さえできれば、5割以上の確率で相手を落とす。その世界では「MICE(カネ、思想、妥協、エゴ)」と「LSDS(愛情、不満、秘密の共有、ストレス)」と呼ばれる心の隙間に忍び込み、そっと渡した封筒を相手が受け取れば後戻りができない関係になる。

 2000年に発覚したボガチョンコフ事件(※)では、職場や家庭の悩み、子どもの病気を抱える幹部海上自衛官がターゲットになった。両者の出会いは「シンポジウム」だったという。

※ロシア連邦軍参謀本部情報部(GRU)の機関員とみられるヴィクトル・ボガチョンコフ氏が、海上自衛隊の3等海佐(当時)に接触し、情報を得ていた事件。3佐は息子を白血病で亡くしており、ボガチョンコフ氏は見舞金を渡すなどして心を掌握した。

 スパイの世界では「エージェント(情報提供者)の新規獲得」が最大の成果とされる。「有効な情報の入手」はその次だ。そのため、やる気のある人物ほど工作に汗を流す。

 ちなみに筆者の肌感覚では、日本国内にいる外国人スパイの数は、おそらく米国、中国、ロシア、韓国の順に多い。世界最大級の経済都市である東京は、重要な情報が飛び交う“交差点”であるため、同盟国や友好国もアンテナを張り巡らせているのだ。

 では、こうしたスパイは、日本国内でどのような身分に扮しているのか。

スパイの表の顔は
「外交官」

 実は多くの場合、スパイは「外交官」などの公的な身分を持ち、大使館などに正式に勤務している。映画の影響から「偽装パスポートで密かに入国し、人目を避けて暗躍している」といったイメージを抱く人がいるかもしれないが、現実は必ずしもそうではない。

 専門用語では、外交官の身分を持ったスパイを「オフィシャル・カバー(OC)」、政府の庇護下にないスパイを「ノン・オフィシャル・カバー(NOC)」と呼ぶ。