この苦い経験は、その後のマイナンバーカード、とりわけマイナ保険証の設計にも色濃く影を落としています。厚生労働省の中枢には、当時の年金記録問題の修羅場をくぐった官僚たちが多く、「もう二度と紐付け間違いを出してはいけない」という強い危機感が共有されていました。

 しかし、住基ネット最高裁判決が示した自己情報コントロール権(※)への配慮から、「個人情報は分散管理の枠内であれば合憲」とするロジックが、厚労省にとって強い制約条件として立ちはだかりました。※憲法13条のプライバシー権を基礎に、個人情報が第三者に開示・公表されない自由や、誰に・どこまで・どのように情報を開示・利用させるか(またはさせないか)を自ら決定できる権利

 その結果、年金・医療などの情報を一元的に束ねる強力なハブシステムを制度として設計しにくく、現場では従来どおり、住所・氏名・生年月日・性別といった項目を手掛かりにマイナンバーと照合せざるを得ませんでした。このプロセスに依存したため、同姓同名や入力ミスなどによる紐付け間違いが相次ぎ、23年ごろに社会問題化しました。

 その問題も今は落ち着き、マイナンバーカード保有数は1億枚を突破し、デジタル身分証として普及したといっていいでしょう。「マイナ保険証」は、従来の健康保険証の廃止により(猶予期間あり)、利用登録数は9000万件を超えています。「マイナ免許証」も始まり、手続きの簡素化や免許更新時の講習オンライン化が進んでいます。

 利便性と有効性が高まる中、今後は「スマートフォンのマイナンバーカード」が進むかどうかでしょう。マイナンバー機能をスマホ(iPhone、Android端末)に追加して利用するもので、最新発行数は26年1月21日時点でiPhone 版が500万枚と、まだまだです。