「見逃し」か「限界」か
監査への「期待ギャップ」という問題

 しかし、ここで私たちが冷静に考えなければならないのは、「監査法人が見逃した」という批判が果たして正当かどうかということです。

 監査における「重要性」とは、「投資家や株主に重要な影響を与えるかどうか」という観点で判断されるものです。今回のケースを振り返ってみましょう。KDDIの株価は急落し、投資家に甚大な影響を与えました。その意味では、売上高の1.3%であっても「重要な影響」を与えたことは紛れもない事実です。

 ならば「もっと厳しく見るべきだった」という声は、至極もっともに聞こえます。

 しかし一方で、監査法人のリソースには限りがあります。5.9兆円という巨大な売り上げの中から、書類上は何の異常もない1.3%の取引を「怪しい」と見抜くことは、現実問題として極めて困難です。仮に全ての取引に対して成果物の実在性まで確認しようとすれば、監査報酬は天文学的な金額に膨れ上がり、そのコストは最終的に株主が負担することになります。

 ここに「期待ギャップ」と呼ばれる根深い問題があります。

 世間は「監査法人がチェックしているのだから不正は見つかるはず」と期待する。しかし監査の現実は、重要性の基準に基づく「合理的な保証」であり、「全ての不正を発見する」ことを約束するものではない。

 このギャップが、不正が発覚するたびに監査法人への批判として噴き出すのです。

循環取引を止めるために
AIが変える監査の未来

 循環取引は、何十年も前から繰り返されてきた「古典的」な不正手口です。昨年のオルツ、そして今回のKDDI子会社。お金が実際に動き、書類も完璧に揃っているからこそ発見が難しく、一度始まると雪だるま式に金額が膨らんでいく……。いくつもの監査法人を欺き続けてきたこの手口を、そろそろ本気で食い止めなければなりません。

 そのために必要なのは、取引の「成果物の実在性」と「対価の妥当性」にまで踏み込む監査です。広告代理事業であれば、「本当にその広告は掲載されたのか」「その広告料は市場相場と照らして妥当か」まで確認する。しかしこれは人手でやろうとすれば、膨大なコストと時間がかかります。