ノバーク大統領(当時)が2023年、児童への性的虐待事件の隠蔽に関与した人物と知りながら恩赦を与えていたことが判明し、野党のみならず与党内からも批判の声が相次いだ。大統領や法務大臣が辞任し、オルバーン首相も直ちに憲法を改正して「児童に対する犯罪者への恩赦」を禁止すると発表するなど火消しを図ったものの、これまで強固に政権を支持してきた保守層の道徳的支柱を揺るがした。
対するティサは、元々は政権に近い立場にいたマジャル氏が内部告発的に立ち上げた新興保守政党であり、「EUとの関係改善」や「反汚職」を掲げて急速に支持を拡大している。
従来の野党が「左派・リベラル」の色が強く、保守的な地方層に浸透しきれなかったのに対し、ティサは「愛国的な変革」を訴えることで、フィデスの岩盤支持層を切り崩している点が特徴だ。小選挙区の情勢調査でも、ティサとフィデスは拮抗しており、2010年以降で初めて、現実的な政権交代の可能性が高まっている。
懐疑派筆頭格の退場で
EUの一体感が回復か
ハンガリーの総選挙の行方は、ハンガリー国内のみならず、EU全体にとっても重要な意味を持つ。オルバーン氏は、「非リベラル民主主義」を標榜し、法の支配や移民政策、環境政策などを巡ってEUと激しく対立する、EU懐疑派の筆頭格であるからだ。
特にロシアのウクライナ侵攻以降は、EU加盟国でありながら親ロシア的な姿勢を明確にしてきた。2026年2月23日のEU外相会合でも、ハンガリーが拒否権を行使したことで、ウクライナ向けの900億ユーロ(約16.6兆円)の無利子融資で合意することが出来なかった。追加の対ロシア制裁も見送られた。
仮にティサが政権を握れば、ハンガリーの外交方針はEUとの協調路線へと大きく転換すると見込まれる。マジャル氏は、公共メディアの独立性や法の支配の回復を公約に掲げており、これらの問題を重視するEUとの関係は改善する公算が大きいだろう。
これはEU全体の一体感回復にも直結する。ウクライナ支援や対ロシア・対中国政策において、全会一致を原則とするEUの意思決定プロセスがスムーズになり、安全保障やエネルギー政策での連携が強化されることが予想される。また、オルバーン氏という象徴的なリーダーを失うことで、スロバキアなど他のEU懐疑派加盟国の影響力や、EU加盟国内の反EU勢力の勢いが削がれる可能性もある。







