トランプ英語で学びたい5つの特徴とは?

 続いて1時間40分弱にもおよぶ演説全体を分析すると、コミュニケーションの本質が凝縮されていることが分かりました。英語学習者やビジネスパーソンが参考になる5つの際立った特徴があるのです(本稿では発言内容に対する賛否は横に置きます)。

【1】超シンプルな単語で「壁」をつくらない

 最も際立つ特徴が、語彙の平易さです。冒頭からこんな言葉が続きます。

Our nation is back, bigger, better, richer and stronger than ever before.
《私たちの国が戻ってきた。かつてないほど大きく、より良く、より豊かに、より強くなって。》

 Back、bigger、better、richer、strongerなどは日本の中学1年生で習う単語です。政治家の演説では通常、revitalizedやunprecedented prosperityといった難解な表現が並びます。しかしトランプ氏は意図的にそれを避けています。超シンプルな言葉を選ぶことで、聴衆との壁をなくす最初のステップにしています。

 ビジネスの世界でも同じでしょう。難しい言葉を使うことが「高い英語力の証明」だと勘違いしている人がいますが、実際はシンプルな言葉ほど相手の心に届きます。プレゼンでも会議でも、まず「伝わること」を優先する。トランプ演説は、その原則を体現しています。

 どれほどシンプルな語彙か、『Text Checker』(オックスフォード大学出版局)を使って確認すると、演説を構成する総単語数1万0382語のうち、Oxford 3000に含まれる単語が実に88%を占めていました。Oxford 3000の語彙は中学英語+アルファ程度です。Oxford 5000まで広げると92%をカバーしています。一方で、難解な語彙(Unclassified)はわずか8%でした。

 つまり、トランプ演説の約9割は、多くの英語学習者がすでに知っている単語で構成されています。このことから、日本人が英語を話せない本当の理由は、「知っている単語がない」のではなく、「知っている単語を使う勇気がない」ということだと思います。

Text Checker
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【2】反復で「記憶」に刻む

 次に目立つのが、同じフレーズの徹底的な繰り返しです。例えば、Going backという表現が何度も登場します。

We are not going back. Today, our border is secure.
《我々は後戻りしない。今日、国境は安全だ。》

And we will never go back to where we were just a very short time ago.
《つい少し前にいた場所へは、絶対に戻らない。》

 人は、繰り返し接触した情報ほど受け入れやすくなります(心理学で「単純接触効果」といいます)。トランプ演説は、反復の力を見事に活用しています。