フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ。輝かしいキャリアを持つ彼女の著書『リーン・イン』が全米で大きな話題を呼んでいる Photo:UPI/AFLO

 フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグの主張がアメリカで大炎上しているという。事の発端は、彼女が今年3月に出した著書『リーン・イン』である(日本語版は6月26日発売)。

 『リーン・イン』の「リーン(lean)」は「傾ける、寄りかかる」というような意味で、バイクではコーナーで身体をコーナーの内側に傾けるテクニックを指す。シェリル自身はスキーでつかう言葉だと説明している。つまり、体重を前方にかけるということだ。経験者ならピンとくるが、スキーでは体重を前方にかけなければ(つまり、腰が引けた状態だと)うまく滑れない。特に40度を超えるような急斜面では、ターンの時に体重を前にかけるには勇気が要るが、そうしないとあっという間に転倒してしまうのだ。

 シェリルはこの著書で、「女性たちも勇気を持って前方に向けて自分たち自身の身体を(気持ちを)預けよう(傾けよう)。そうすれば自分たち自身の人生が加速する」というメッセージを女性に向けて発信している。「lean in」を「一歩、前へ」というような訳し方をするメディアもあるが、これではちょっとニュアンスが伝わらない。

 ところが、このシェリルのメッセージが、アメリカで賛否両論の大激論を巻き起こしてしまっている。今回は、このシェリル・サンドバーグの主張とそれを巡る議論を通して、いわゆるジェンダー平等について考えてみたい。

「ガラスの天井」は
女性自身が生んでいる?

「女性の解放」「ジェンダー平等」は今世紀最大の社会課題であるが、それを実現させるためには、女性自身のマインドセットを変える必要がある。それは、途上国だろうが、欧米日本の経済先進国でも事情は変わらないし、そのことを理解しておかないと、途上国の女性が尊厳を取り戻すことも、日本の社会の中での完全な男女平等も実現はできない。誤解を恐れずに言えば、「男女不平等の責任の半分は女性にある」のだ。

 シェリルの主張が大炎上を起こしているのも、まさにそこがポイントになっている。日本よりもはるかにジェンダー平等が進んでいるように見えるアメリカにおいても、いわゆる「ガラスの天井」が存在する。25歳から34歳までのアメリカ人のうち、大学卒の学位(学士)を持つのは男性26%に対して女性は36%だが、フォーチュン500の企業のうち、女性CEOの割合はたったの4.2%である。また、専門職などの高キャリア女性で、出産など家庭の事情でいったん職場を離れた後、仕事に復帰した女性は39%である(2005年)。

「仕事における男女平等」という意味では、あきらかにアメリカ社会も不平等なのだが、その原因については2つの考え方がある。

 ひとつは、制度的な問題であるという考え方。政治や企業のあり方が原因でジェンダー平等が実現できていないという考え方だ。もうひとつは、女性自身に問題があるという考え方で、シェリルはこの立場を取っている。いかにも炎上しそうな主張で、だから実際にアメリカで大激論が巻き起こっているのだが、メディアの注目度も高く、タイムやCNNなどのマスメディアから、ハーバード・ビジネス・レビューのようなかなり専門的な雑誌までこぞってシェリル特集を組んでいる。それだけ大きな社会的関心を得ているということだ