事例で読み解く!経営・ビジネスの深層Photo:Bloomberg/gettyimages

2015年に発生した不正会計問題以降、深刻な経営難に陥った東芝。社債市場でも、東芝社債が暴落するなど話題を集めたが、その機をつかんでもうけを手にしたのが海外ヘッジファンドだった。連載『事例で読み解く!経営・ビジネスの深層』の本稿では、前編後編にわたり東芝を巡る当時の海外ファンドの動向を解説していこう。まず、前編では、その基本となる社債のリターンとリスクの仕組みについて解説する。東芝に限らず、社債全般の理解に役立つはずだ。(フジワラキャピタル代表取締役社長 土屋剛俊)

暴落した東芝の社債に
目を付けた海外ヘッジファンド

 今回は、2010年代の社債市場で起きた東芝の事例を解説したい。

 まず、日本の社債市場には、発行体のリスクが高い分高利回りである、いわゆる「ハイイールド市場」というものはない。なぜなのか。日本では基本的に投資適格の格付け(つまりハイイールドではない社債)を持つ企業しかプライマリー(新発債)市場で社債の発行ができないためである。日本の社債市場で投資適格しか発行できなくなってしまったことには歴史的背景があるのだが、ここで説明すると長くなるのでご興味のある方は、拙著『入門 社債のすべて』(ダイヤモンド社)を参照されたい。

 日本にハイイールド市場があるとすれば、「できちゃったハイイールド市場」である。つまり、発行当初は投資適格の格付けが付与されていたものの、その後に財務状況が悪化して“格下げ”となり、価格が大きく下落して、計算上の利回りが高くなった債券が市場に存在することがある、という程度だ。

 そんな「できちゃったハイイールド市場」の典型といえるのが、東芝の社債だった。名門企業・東芝の社債が売り込まれ始めたのは、15年に不正会計問題が発覚し、コーポレートガバナンスの悪化や信頼性低下を理由に格下げがされた時期である。業績への懸念から、株価も暴落した(下図参照)。

 その後、リストラによる期待などから株価が戻す局面もあったが、16年末に原子力事業で「数千億円」規模の減損が発生する見込みが公表されると、再び株価も下落。翌年に子会社の米ウエスチングハウスが連邦破産法11条の適用を申請したことで、最終的にのれんの減損額は7000億円を超えた。自己資本も消滅し、17年3月期の連結株主資本は▲5529億円、連結純資産の合計は▲2757億円という惨憺たるありさまで、健全な財務を誇った東芝が見る影もない状態になってしまった。

 クレジットリスク評価において極めて重要視されるのが自己資本比率であるが、これが極端に悪化したとあっては格付け会社も黙っていないし、金融機関のクレジットアナリストたちもネガティブに反応せざるを得ない。何とか投資適格に収まっていた東芝の格付けも、一連の経営悪化を契機に、外資系の格付け会社はいずれも「投資不適格」「投機的格付け」の水準となり、東芝の社債はいわゆる“ジャンク債”となってしまったのである。

 しかし、その機に乗じて“巨額の利益”を手にしたのが海外ヘッジファンドだった。経営危機に直面し、倒産さえ危ぶまれた東芝の社債に、海外ヘッジファンドはなぜ投資へと踏み切れたのか。その着眼点と当時の東芝危機について、社債の面から振り返っていこう。

 前編となる今回では、まずその状況を理解するために、債券投資の「リスクとリターン」の考え方について基本を解説していく。

 社債投資は、株式投資に比べて損益の発生メカニズムがやや複雑であるため、社債投資の投資リターンとリスクについての基本を説明することは、読者の理解に資すると考えるためである。債券に関しては難しい数式が出てきやすいが、ここでは退屈な数式は用いないで説明させていただきたいと思う。