「シリコンバレーの天才たちの群像劇に、ページをめくる手がとまらない」
「この本を読まずして、現代の国際情勢は語れない」

発売以来、そんな絶賛の声が続々集まっているのが、書籍『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(クリス・ミラー著、ダイヤモンド社刊)だ。
本書は、スマートフォンなどの日用品から軍事兵器に至るまで、世界の命運を握る「半導体」をめぐる米中などの熾烈な覇権争いを圧倒的なスケールで描き出し、日本のビジネス現場でもさまざまな企業・業界・個人から圧倒的な支持を集めている。
今回、著者のクリス・ミラー氏が緊急来日。ラピダスの成功確率から、AI時代の日本の半導体メーカーの生き残り戦略まで、我々が今もっとも知りたい質問をぶつけてみた。全8回にわたってお届けする。(構成/大野和基

【『半導体戦争』クリス・ミラーに聞く】日本の半導体産業が衰退した本当の理由Photo: Adobe Stock

日本の半導体企業は「依然として」
最先端技術を有している

――日本の半導体産業の衰退につながった要因の一つとして、日本がトップの地位に安住し、いわば過去の栄光にあぐらをかいて、他国が追いついてきていることに気づかなかったことが挙げられます。では、あなたの見解では、日本の半導体産業が衰退したのはなぜなのか、詳しく説明してください。

クリス・ミラー(以下、ミラー) まず、日本の半導体製造におけるシェアは1990年代初頭から低下しているものの、サプライチェーンの特定のセグメント、例えば半導体製造装置や半導体製造材料などにおいては、東京エレクトロンや信越化学工業といった日本の企業は依然として重要かつ収益性が高いことを指摘しておくことが重要だと思います。

 つまり、サプライチェーン全体において、日本は依然として非常に強く、日本の企業は依然として最先端技術を有し、商業的にも過去数年間、そして過去数十年にわたり非常に好調な業績を上げてきました。

 ですから、これが日本の半導体産業の衰退に関する話に対する最初の注意点だと思います。

 しかし、半導体製造における市場シェアという点では、日本は米国や欧州と同様に衰退しているのは事実です。そして、その主な理由は2つあると思います。

 まず、日本の企業はビジネスモデルの変化に対応できていなかったことです。日本の企業が業界のトップにいた頃は、半導体の設計と製造の両方を自社で行っていました。しかし今日では、ほとんどの半導体は異なる企業によって設計・製造されています。

 例えば、シリコンバレーで設計され、台湾のTSMCで製造されています。このビジネスモデルの転換は、技術の進歩と収益性の向上に非常に重要でしたが、日本の企業はそれに対応できていませんでした。

 2つ目の要因は、日本の企業がアーキテクチャの転換にも対応できていなかったことです。彼らはメモリチップに注力していましたが、これは今でも良いビジネスではあるものの、経済的にはるかに重要なのはプロセッサチップです。

 そして、日本の企業はこの分野に注力したことがなく、その結果、設計と製造の両方で追い抜かれてしまいました。

――これまで誰にも話していない要因があれば教えてください。

ミラー (笑)もう一つ際立っている要因は、グローバルな相互接続の活用だと思います。

「台湾の強みは何か?」と問われたら、答えは「台湾独自のサプライチェーンを構築しようとしなかったこと」でしょう。

 台湾は規模が小さすぎて、そのような戦略は現実的ではありません。その代わりに、シリコンバレーとの緊密な連携、そして日本のサプライヤーとの上流工程における緊密な連携を図りました。

 TSMCが世界最大の半導体メーカーになれたのは、自社の専門知識だけでなく、さまざまな大陸の専門知識を活用できる能力も大きな要因です。

 そして、この点においてTSMCは他社に引けを取らない、あるいは他社を凌駕するほどの成果を上げてきたと私は考えています。

――つまり、そういう意味では、日本の企業はもっと賢明な判断をすべきだったということですね。

ミラー その通りです。よりグローバルな統合を進め、ますます多様化するサプライチェーンを受け入れる方が、より良い戦略だったと思います。