保険大激変 損保の構造的課題が生保にも飛び火!#1Photo:mediaphotos/gettyimages

自動車保険の不正請求事件や企業向け保険における保険料の事前調整など、法令や顧客本位の業務運営に背く商習慣が損害保険業界ではびこっていたことがこの2年、次々に明らかになった。損保各社は信頼回復を急ごうと、先手を打つように社内ルールの整備を急ピッチで進めている。中でも新たなルールとして大きなインパクトを持つ変更の一つが、出向者の一斉引き揚げだ。現役出向者たちは今、この動きをどう見ているのか。特集『保険大激変』の#1では、現役出向社員5人による覆面座談会をお届けする。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫、構成/副編集長 片田江康男)

一気に顕在化した損保“構造問題”
出向者原則引き揚げで現場大混乱!

 旧ビッグモーター(現ウィーカーズ)による保険金の不正請求事案や損害保険大手4社が手を染めたカルテル行為に加え、顧客の個人情報の漏えいなど、複数の不正事案が一気に噴出した損保業界。根っこにあるのは、損保会社の営業成績を優先するあまり、複数の損保会社の商品を取り扱う大規模な乗り合い代理店に対して、適切な管理や指導を行っていなかったことだ。

 中には、通常の営業協力や業務の範囲を超えて、乗り合い代理店に対して過度な便宜供与を行っていたケースもあった。

 例えば、自動車の販売や修理を手掛ける兼業代理店に対しては、事故車の査定を過度に簡略化することで保険金の不正請求を見逃したり、保険契約欲しさに事故車の入庫誘導を他損保と過剰に競い合ったり、また、通常の営業協力を超えた自動車などの物品やサービスの購入をしたりといった具合だ。

 こうしたあまたの損保業界の構造問題を議論すべく、2024年に有識者会議が開かれ、その後には保険業法の改正を行うべく金融審議会が開催される事態となった。24年12月末に最終報告書がまとまったが、論点は多岐にわたり、今後1年超をかけて細部を詰めることになっている。その大きな論点の一つが「出向」問題だ。

 出向は、代理店が適切に保険募集を行うために、損保会社からの出向者が代理店の体制の整備・構築を手伝うというのが本来の目的だ。ところが、代理店が行うべき事務作業を損保社員が肩代わりしていたり(二重構造)、自社の商品を拡販することを目的に出向者を送り込んでいたりと、過度な便宜供与とみられる出向者の存在が浮き彫りとなった。

 一方、代理店側にしても、出向者に保険実務を依存するあまり自立できない代理店が数多く存在することも明らかとなった。

 これらの問題発覚により、日本損害保険協会は出向に関するガイドラインを策定し、保険募集に関連する出向は原則としてできないこととした。だが、事態を重くみた東京海上日動火災保険が全ての出向者を原則として引き揚げることを表明し、他の損保各社もおおむねその方向にかじを切っている。

 むろん、その影響は甚大だ。すでに出向者の引き揚げを行っている損保会社もあり、代理店の現場では大混乱が生じているのだ。

 代理店からは、出向元である損保会社が急ピッチで進める施策に付いていけないと悲鳴が上がっている。事業パートナーであるにもかかわらず、相変わらず現場を軽視した損保各社の急な対応に、たまりにたまった不満は今にも爆発しそうな状況だ。

 出向している損保社員たちと転籍した代理店の社員は、この急激な変化をどのように捉えているのか。本稿では、主にモーター系の乗り合い代理店に出向している損保会社の現役社員らに対し、出向者の引き揚げに対する率直な意見を聞いた。次ページで、内情の暴露とともに、生の声をお届けする。