ベスト経済書2026#7Photo:Kuninobu Akutsu、Katsumi Murouchi/gettyimages

日本は本当に「一億総中流」の社会だったのか。特集『ベスト経済書2026』(全10回)の#7では、『新しい階級社会』の著者であり、格差研究の第一人者である橋本健二・早稲田大学人間科学学術院教授が、40年にわたる研究の歩みと、バブル崩壊後に顕在化した階級社会の実像を語る。そして、非正規労働の拡大が生んだアンダークラス、女性間格差、コロナ禍の影響を通じて、現代日本が直面する存続の危機を浮き彫りにする。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

バブル経済の陰で進んでいた
日本の経済格差拡大

 格差に関する研究を始めたのは大学院生のときだから、もう40年ほど前になります。「日本は階級社会だ」というのは当時からの私の確信でしたが、「一億総中流」がほとんど常識とされていた時代だったから、ずいぶんと変人扱いされ、指導教員からも白い目で見られました。

 事情が変わってきたのは、1990年代の半ばあたりからです。バブル経済は日本の経済格差を拡大させましたが、お金持ちがますます豊かになったとはいえ、普通の人々もそれなりに豊かになったから、格差拡大はあまり意識されませんでした。

橋本健二橋本健二(はしもと・けんじ)/1959年生まれ。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。静岡大学教員を経て、2002年から武蔵大学社会学部教授、13年4月から早稲田大学人間科学学術院教授。著書に、『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社)、『貧困連鎖――拡大する格差とアンダークラスの出現』(大和書房)、『「格差」の戦後史――階級社会日本の履歴書』(河出書房新社)などがある。

 ところがバブル崩壊後になると、お金持ちは相変わらず豊かなのに、普通の人々は貧しくなり、貧困に陥る人々も増えました。一般向けの週刊誌や月刊誌には「新・階級社会ニッポン」「超階級社会」などという文字が躍るようになりました。

 そして、2000年代半ばになると、格差拡大が誰も否定することのない事実であることが明白となり、「格差社会」が流行語となりました。日本人の社会に対する認識は、大きく転換しました。私のところにも、多数の執筆依頼や講演依頼が舞い込むようになりました。

「格差社会」という言葉は広く浸透したが、それだけでは格差の構造や原因を十分に説明できない。次ページでは、橋本氏がデータに基づいた新しい階級社会の実像を語る。