Photo:Kuninobu Akutsu、Katsumi Murouchi/gettyimages
男女の賃金格差はなぜ縮まらないのか。特集『ベスト経済書2026』(全10回)の#8では、日本企業の人事データを長年分析し、『男女賃金格差の経済学』の著者である大湾秀雄・早稲田大学政治経済学術院教授が、単純な賃金比較では見えない格差の構造と、現場の管理職が果たす役割の重要性を解説する。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
人事データから見えた
男女格差の本当のボトルネック
拙著『男女賃金格差の経済学』がベスト経済書の第6位にランクインしたことで、男女の賃金格差というテーマに対する社会的関心が、この数年で大きく高まっていることを改めて感じています。
男女格差に関しては、すでに多くの優れた研究や書籍があります。その中で、なぜ私自身がこの本を書こうと考えたのか。その背景には、研究者として長年、日本企業の人事データを分析してきた中で抱いてきた、いくつかの問題意識がありました。
大湾秀雄(おおわん・ひでお)/東京大学理学部卒業後、野村総合研究所勤務を経て留学。コロンビア大学経済学修士。スタンフォード大学経営大学院博士。ワシントン大学オーリン経営大学院助教授、青山学院大学国際マネジメント研究科教授、東京大学社会科学研究所教授を経て2018年から早稲田大学政治経済学術院教授。経済産業研究所ファカルティフェロー兼任。東京大学エコノミックコンサルティング株式会社アドバイザー。専門は人事経済学、組織経済学、労働経済学、およびイノベーションの経済学。著書に『日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』日本経済新聞出版)。
まず大きかったのは、「男女格差を改善したい」と考えている人事マネジャーは少なくないにもかかわらず、実際に何をすればよいのかについて、十分な見通しや具体策を持てている人は極めて少ないという現実です。
私は15年ほど、日本企業の詳細な人事データを分析してきました。その中で見えてきたのは、男女格差の表れ方は企業ごとに異なるものの、共通して見られるパターンや、重点的に点検すべきポイントはかなり絞られるということです。
また、女性活躍の推進が日本経済の再生にとって待ったなしの課題であるにもかかわらず、多くの経営者の危機感はなお十分とは言えません。その一方で、「多くの女性は管理職を望んでいない」といった固定観念も根強く残っています。
こうした状況では、「女性活躍を進めましょう」という抽象論だけでは現場は動きません。企業ごとにどこにボトルネックがあるのかを把握し、そのエビデンスを基に経営者に本気で向き合ってもらい、それに応じた施策を考える必要があります。私は、そうした実務的な視点から書かれた本が、世の中に存在していないと感じていました。
企業で男女格差を生み出しているものは何か。次ページでは、大湾氏が単純な賃金比較では見えない格差の構造と、現場の管理職が果たす役割の重要性を解説する。







