クマは反撃してくる可能性
見極めは「手のひら」

 死んだのかを確かめ、回収するのに近づかなくてはならない。撃ち終わった弾を抜き、弾を込め直す。慎重に一歩一歩近づく。「もしも反撃してきたら……」。心臓の鼓動が響き渡る。

 エゾシカの場合、撃った後に襲ってくることはまずないが、ヒグマは反撃してくる可能性が十分にある。一撃をくらっただけで致命傷になる。ベテラン猟師でも、それで死傷事故に至ることがあるのだ。

「倒したヒグマの手のひらが裏返っていたらまず大丈夫。逆に地面をついていたら、起き上がってくる可能性がある。しっかり見ろ」。その師匠の教えを実践する前に、ヒグマは這(は)いずりながら山の笹藪(ささやぶ)に入り込んだ。

 すぐそこにいるはず。「でも、これ以上は私には無理」と判断した渡部さんは、電話で中原さんに連絡してきてもらい、ヒグマを初めて27歳で捕獲したことを確認してもらう。

地域おこし協力隊員として
村に移住

 狩猟鳥獣の生態と管理を学んだ酪農学園大学を2019年3月に卒業した渡部さんは、農協に就職。そこで鳥獣被害に悩む農家から相談され、大学時代に取得した狩猟免許と知識を活かしながら、エゾシカの罠(わな)猟を始めた。

 次第に狩猟の世界の奥深さに目覚め、猟銃所持の許可を取得する。「そんな最中、西興部村にあるエゾシカ猟区の運営支援担当の地域おこし協力隊員として働いていた大学の先輩が任期終了になることを知り、応募しました」と渡部さんは言う。

 購入したハーフライフル銃を携えた渡部さんが、西興部村に移住してきたのは2020年4月。猟区管理協会の会長を務めていたのが、1951年に西興部村で生を受けて50年以上の猟師歴を積んだ中原さんだった。また、74年に横浜市で生まれ、2006年に西興部村に移住してきた伊吾田順平さんが事務局長を務めていた。

 猟区でのメーンの仕事は、9月~翌年4月の猟期の間に訪れた村外のハンターのガイドをサポートすること。ガイド役は先輩猟師でもある中原さんと伊吾田さんが別々に担い、渡部さんは中原さんにつくことになった。