どんな場所に獲物のエゾシカがいるのか。どう獲物に近づいたらいいのか。中原さんのハンターへの具体的な助言は、渡部さんの学びになった。次第に回収したエゾシカの皮剝ぎ、解体を任せてもらえるようになる。休日の中原さんの猟について回ることも多くなり、それら一つひとつが渡部さんにとって、猟師の道を歩む貴重なOJTの場になっていく。

「たいしたもんだよ。いまではエゾシカを1発で倒すんだから。狩猟への興味が深く、周囲が教えたことを真綿が水を吸うように自分のものにしてきたんだろうね」と、中原さんは渡部さんを評価する。

クマの足跡の形の
微妙な変化とは

 エゾシカ猟で実績をあげてきた渡部さんの頭の中で次第に浮かんできたのがヒグマだった。しかし、中原さんですら獲ったヒグマが年に3頭、ゼロのときもあるほど、撃つ機会が少ないのだ。

「もっともいい経験になったのは、2025年4月の捕獲です。中原さんと一緒にエゾシカを探して車で山中を走っていると、柔らかい泥のついたヒグマの足跡が道路に残っていました。脇の川を上がってきたばかりのはず。まだ雪深い山の木々の間に目をやると、山を登っていくヒグマの姿が見えました。スノーシューを履き、おのおの銃を担いで後を追うことにしたのです」

西興部ベテラン猟師・中原慎一さんと雪上に残されたヒグマの足跡

 雪上の足跡を確認しながら、中原さんが先を歩く。渡部さんは中原さんのスノーシューの跡をなぞるようについていく。ヒグマに気づかれないよう無言で。息が上がって音を立てないよう注意する。

 ふと中原さんが歩みを止め、ここでヒグマが立ち止まり、振り向いて後ろを確認したことを、身ぶり手ぶりで教えてくれた。足跡の形の微妙な変化から読み取ったのだ。