「東京」が飛躍できない理由

 金融四大都市のうち、ニューヨークはアメリカ経済とドル、ロンドンはユーロダラー市場とポンド、香港は中国経済と人民元という、巨大な後ろ盾をもっている。それに対して、シンガポールは人口約590万、単独の経済圏としては小さく、独自通貨のシンガポールドルの影響力は小さい。

 そのためシンガポールは、他人の経済圏の資金を通過させる「中立的な何でも屋」に徹するしかなかった。東南アジアの成長マネー、インドの資金、中東のオイルマネーを分け隔てなく受け入れ、運用する。この戦略は見事に成功し、政治的安定と法の支配で世界屈指の国際ハブを築いた。

 香港が自由を奪われ、代わってシンガポールが優位に立つと予想されていたが、実際は伸び悩んでいる。シンガポールは「便利」ではあるものの、経済の拡大とともに伸びていくほどの後ろ盾がない。その停滞は失速ではなく、中立ハブという完成形に到達したがゆえの天井である。

 では、世界有数のGDPを誇る日本経済と円を持つ東京は、なぜ国際金融センターとして伸び悩んでいるのだろうか。それは、国際金融の共通言語が英語であり、契約の準拠法はその大半が英国法かニューヨーク州法であることが大きい。

 香港とシンガポールは、英語とコモンロー(英米法)という「国際標準そのもの」を備えている。外国の金融機関は、自国と同じ言語・同じ法概念で仕事ができる。一方、東京は日本語と大陸法(ドイツ法系)の世界だ。母体経済という第一の軸では世界トップクラスなのに、言語と法という第二の軸で国際資本を締め出してしまっている。

 東京が国際金融センターとして伸び悩んでいる最大の要因は、「英語が通じない」という単純な話だけでなく、外資が自分たちのルールでアクセスできないことにある。つまり、アジアの金融三大都市のうちシンガポールや東京が力を拡大できないままであることで、香港の希少性がいまだに力を維持しているわけである。