リーマン・ショックがFRBを「巨大化」させた
ところが、それから半世紀以上たって歴史は再び逆回転し始める。きっかけは2008年のリーマン・ショックに続く世界金融危機だった。
ベン・バーナンキ議長が率いるFRBは、政策金利をほぼゼロまで下げるとともに、「量的緩和(QE)」という非伝統的な金融政策に踏み込んだ。
さらに、2008年11月には住宅ローン担保証券(MBS)など最大6000億ドルの購入を発表。翌2009年にはMBSを最大1兆2500億ドル、政府機関債を2000億ドル、長期米国債を3000億ドル購入するところまで拡大した。
異例の金融緩和を断行したFRBは、そのときから、単に短期金利を決めるだけの中央銀行から、長期金利、住宅ローン金利、信用市場、果てには資産価格にまで巨大な影響を与えるほどに変貌を遂げる。
当時の常軌を逸したかのようなFRBの政策は、金融危機やコロナ危機という非常時には必要だったものだが、問題は、その非常時のしきみが平時になっても残ってしまうことだった。
今回のジャクソンホールの講演でも、ウォーシュ氏は、金融危機時に導入されたフォワードガイダンスについて「役割を超えて存続しすぎている」と批判している。とりわけ問題にしたのは、FRBが「次は利下げする」「当面金利を維持する」などと細かく市場へ予告することだった。
市場参加者は、FRBの予告を受けて企業業績や経済そのものではなく、「FRBが次に何をするか」を読む。さらにFRBは、その発言によって動いた市場価格を見ながら金融政策を決める。
現在のマーケットでは、「投資家は国家に逆らうな」という格言をもじった「投資家はFRBに逆らうな」が絶対的ルールになっている。ウォーシュ氏はこれを「鏡の間(hall of mirrors)」と呼び批判する。
「鏡の間」とは、中央銀行と金融市場が、あたかもお互いの出方を映し合って依存し合っているような状態のことを指す。このことによって、市場はFRBのフォワードガイダンスだけを見て金利をあらかじめ織り込み、FRBは「市場がこれだけ織り込んでいるから」と、その価格を追認して政策を決定するという循環が起きる。
マーケットがこのような循環に陥ると、インフレや雇用の変化などリアルタイムの経済の変化に鈍感になって、適切な政策を打てなくなるリスクが高まるのだ。
ウォーシュ氏は、「非常体制」のままFRB依存に陥っているマーケットの自律機能を取り戻すべく、FRBを再構築しようとしている。ここに、トランプ大統領が「タカ派」と見られる議長をあえて選出した最大の理由がある。







