「デジタルドル」をFRBに任せなかった理由
2025年1月、トランプ大統領は中央銀行デジタル通貨(CBDC)を禁止する一方で、ドル建てステーブルコインを含む民間デジタル金融を育成する方針を打ち出した。
デジタルドルをFRBに発行させれば、中央銀行の影響力はさらに大きくなる。それは、FRBに対して不信感を持つトランプ大統領には受け入れられない。そこで、民間企業に「ステーブルコイン」の形でデジタルドルを発行させ、政府が新たな金融ルールを作る道を選ぶ。
これによって、FRBは物価と金融安定を担い、財務省は米国債とドルの国家戦略を担う。民間企業はステーブルコインを発行し、市場は資本と金利を配分する。政府は減税、規制緩和、AI、エネルギーなどの成長政策を担う。
この政府とFRBの新たな分業スタイルが「トランプ金融革命」のコアになっている。
「小さなFRB、大きなドル圏」が日本に突きつけること
ウォーシュ氏は今回、AIを単なる新技術ではなく、「新たな生産要素」と定義する。
AIによって生産性と潜在成長率が上がるのであれば、これまでのように、過去の経済モデルに最新の雇用統計や物価統計を入力し、機械的に金利を決めるだけでは現状に即さなくなる。
重要なのは、経済構造がどう変わっているかを理解したうえで、データを評価することだ。そのためにも、現在のようにFRBが経済のすべてを制御しようとするのではなく、市場の価格発見能力を取り戻すようなやり方が必要になっているのだ。
この思想は、トランプ政権の民間重視の金融政策と非常に相性がいい。だからこそ、利下げを要求してきたトランプ大統領が、タカ派として知られているウォーシュ氏をFRB議長に選んだことも説明がつく。
実際、ウォーシュ氏は今回のジャクソンホールでインフレに対して厳しい姿勢を示した。それでも8月31日、トランプ大統領は「彼を尊敬している。彼はやるべきことをやるだろう」と述べている。
トランプ大統領がウォーシュ氏に求めているのは、大統領の要求どおり金利を下げることではなく、これまでのようにFRBがマーケットをコントロールするようなやり方を脱することだ。
FRBへの依存を減らし、政府、財務省、市場、民間金融へ役割を戻す。同時にステーブルコインによって世界中の民間資金をドルと米国債へつなぎ、ドル圏そのものはさらに拡大する。「FRBを小さくして、ドルを大きくする」ことこそ、トランプ大統領が進めている「トランプ金融革命」の究極の目標である。
この「トランプ金融革命」が完成したとき、最大の試練を迎えるのは日本だ。
世界中のマネーが米国債を裏づけとするデジタルドルへ向かえば、必然的に日本からは容赦ない資本流出が起きる。それはこれまでの「構造的円安」にとどまらず、国内の金利上昇圧力を招き、いまだ日銀のコントロールに依存する日本の財政・金融システムを直撃するだろう。
従来の金融モデルを維持して沈むのか、それとも新たな防衛策に打って出るべきか、日本にはその決断の時が迫りつつある。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)







