「インクルーシブブランディング」とは
──競争せず、包摂していくブランド観

 インクルーシブブランディングは、ひと言で言うと「みんな一緒にやる」ってことです。

 僕はトヨタに30年在籍した後、ヤマハ発動機で8年、それから現在までヤンマーでブランディングを手掛けてきました。この2社ではいずれも、プロダクト、コーポレート、PRの三つを軸にブランディングを同時進行させました。

 ヤマハ発動機とヤンマーには共通点があります。どちらも事業を多角化したコングロマリットで、商品や技術は素晴らしいけれど、完全なるスター商品がない。常に業界2番手で、一等賞がなかなか取れない。トヨタでは、世界に誇る技術と品質という盤石の土台の上に、プレミアムブランドという器を積み上げるのが僕の仕事でしたが、2番手のコングロマリットとなると、そもそも「自社が何者か」が社内でも見えにくくなっている。

 だからこそ、社外向け(エクスターナル)と、社内向け(インターナル)を両方いっぺんにやらなくちゃいけない。特に大事なのがインターナルです。ブランディングというと、どうしてもブランド名やロゴのリニューアル、アンバサダーの起用といったエクスターナルに偏りがちです。そうではなく、インターナルもインクルードして(巻き込んで)「価値を創り出す力」を強くする。中身が伴っていないのに外面だけを整えても「お金をかけただけでしょ」と見透かされ、本質的なブランディングにつながりません。

 エクスターナルとインターナルを同時進行させて実力を蓄え、その実力で生み出したものが世の中に認められ、ちゃんと売れていき、新しい人がやって来て成長し続ける――。こうした好循環を回していくのがインクルーシブブランディングの基本です。
 
 さらに言うと、市場も丸ごとインクルードした方がいい。いわゆる「マーケティングの3C」と呼ばれるカスタマー(顧客)、コンペティター(競合)、カンパニー(自社)の間に壁をつくらず、全てをステークホルダーと考えるのです。「売れればいい」「競合に勝てばいい」という発想をやめて、みんなが同じゲームのプレーヤーだと考える。レクサスの例でも分かるように、トータルのパイを何十倍にもできるなら競合を打ち負かす必要はないし、その方がみんな幸せです。

 実は、そのさらに先に、森羅万象をインクルードして自己規定をやめるとか、時間をインクルードして過去・現在・未来を一つのものとして考えるとか、いろいろと考えていることはあるんですが、ここでは入り口だけにとどめておきます。